コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第131回
2010年11月29日更新
第131回:人間ドラマで魅せるホラー・サスペンス「ウォーキング・デッド」
今年は海外ドラマブームを牽引した「24」と「LOST」が揃って放送を終了してしまったが、ドラマファンの方はご安心を。この秋、アメリカでスタートしたばかりの新ドラマが豊作なのだ。J・J・エイブラムスのスパイコメディ「Undercovers」はあいにく凡庸な仕上がりだったけれど(早くも放送終了が決定)、「24」と「LOST」をミックスしたような陰謀ミステリー 「The Event」や、「Mr. インクレディブル」的なスーパーヒーロー一家のコメディ 「No Ordinary Family」は、早くもお気に入りになっている。また、新ドラマというわけではないけれど、「フリンジ」は今シーズンになってようやくSFドラマとしてのポテンシャルを発揮するようになって、「こちらの世界」と「あちらの世界」を一話ごとに交互に描くという大胆な試みを行っている。
バラエティ豊かな新ドラマのなかで、いまぼくがもっとも夢中になっているのがホラー・サスペンスの 「ウォーキング・デッド」だ。
実はぼくはホラーが大の苦手で、ゾンビが登場するドラマなど普段なら見向きもしない。それでも「ウォーキング・デッド」の初回放送にチャンネルを合わせたのには、2つばかり理由がある。
まず、「マッドメン」や「ブレイキング・バッド」、最近では「Rubicon」(あいにくシーズン1で完結となってしまった)といった秀逸なオリジナルドラマを連発しているAMCで全米放送されるという点。さらに、「ショーシャンクの空に」や「グリーン・マイル」のフランク・ダラボン監督が企画と製作総指揮を務めていることも大きい。最近はあまりぱっとしないけれど、ダラボン監督がヒューマンドラマの名手であることには変わりない。その彼が、パイロット版の脚本と監督を手がけているのである。
さて、物語の主人公は、田舎町の警察官リック・グライムス(「ラブ・アクチュアリー」のアンドリュー・リンカーン)だ。ある日、勤務中に瀕死の重傷を負い、昏睡状態に陥ってしまう。その後、リックは奇跡的に目を覚ますものの、意識を失っているあいだに、世界は変わり果てていた。廃墟と化した街には、The Walkerと呼ばれるゾンビが大量に徘徊し、食料となる人間を捜している。変わり果てた世界にぼうぜんとしながら、リックは妻と子供を探す旅に出ることになる……。
終末の世界を舞台にしたホラーだから、ひりひりとした緊張感が張りつめ、グロテスクな表現や残虐な描写が至るところにある。それでもこの世界から目が離せないのは、素晴らしいヒューマンドラマが描かれているからだ。設定そのものはダニー・ボイル監督の「28日後…」に似ているけれど(ロバート・カークマンのコミック「The Walking Dead」が原作)、その核は、困難な状況に置かれた赤の他人同士の友情を描くサバイバルストーリーなのだ。
初回放送はケーブル局のAMCとしては異例の530万人が視聴。早くもシーズン2への継続が決定している。すでに日本でも放送が始まっているので、興味のある人はぜひ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi