コラム:やっぱり、映画館で見たい! - 第3回

2020年8月26日更新

やっぱり、映画館で見たい!

第3回:kino cinema横浜みなとみらい・佐古和磨支配人

新型コロナウイルスの猛威の影響から、政府による緊急事態宣言を受けて日本全国ほぼ全ての映画館が休業を余儀なくされた。東京都では、休業要請を緩和するロードマップが「ステップ2」に移行した6月1日から多くの劇場が営業を再開したが、全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)が定めるガイドラインに基づき、座席数の50%しかチケットが販売できない状況が当面は続きそうだ。そんななかでも各映画館、働くスタッフたちは、細心の注意を払って来場者を迎えている。

今までの日常が、どれほどかけがえのないものであったかを多くの人がかみ締めているなかで、「これまで通り映画館へ行くことに不安がある」と感じている人がいることも事実。では、映画館は現在本当に安全なのか? 映画館は本当に“3密”なのか? 映画.comでは劇場の運営に携わるうえで最前線を取り仕切る支配人に話を聞き、どのような対策を練っているのか、どのような思いで来場者を迎え入れているのか、現場で働く人々の声を届けていく。第3回は、kino cinema横浜みなとみらいの佐古和磨支配人、kino cinemaの宮澤祐人常務に話を聞いた(取材日は8月5日)。

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kino cinema横浜は、2019年4月に開業。「TSUTAYA 横浜みなとみらい店」の2階をリニューアルして作られ、「ブックス&カフェとシネマのある空間」というコンセプトのもと3スクリーン、合計277席で構成されている。佐古氏と宮澤氏は、営業再開後も精力的に働くスタッフに感謝の念をにじませる。

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佐古氏「アルバイトも戻ってきてくれました。皆さん映画が好きで働いてくれているわけですが、この状況でも辞めずに残ってくれた。ましてや動員が減っているなかでコストも減らさなければいけないなか、『シフトに入れる日が少なくてもいいから働きたい』と言ってくれて、本当にありがたい」

宮澤氏「営業再開後は、上映後の幕間などで除菌などの仕事が増えているわけですが、すごく丁寧にやってくれています。それは、お客様にも見えていると思うので、安心して映画を楽しんでいただけているのを感じます。まだまだ動員には結びついていませんが、そういう意識づけを皆で共有している姿もいいなと感じています」

取材は平日のランチタイム前後に行ったが、ほかの劇場と同様、来場者は決して多いとはいえない。だが、ふたりは休業前とは明確な違いを肌で感じている。それは、パンフレットの売り上げだ。

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佐古氏「現在ご来場いただいているのは、昔からの映画ファンで『映画館が開くのを待っていたよ!』という方々が中心。そういう方々は、どうにか映画館にお金を落とそうとしてくださっているのが、パンフレットの購買率から伝わってきます。映画好きの方がより一層買ってくださっているのか、普段は買わないけれど応援の意味合いで買ってくださっているのかは分からないんですが、本当に感謝しています」

同じエリアではないが、付近には横浜シネマリン(伊勢佐木町)、シネマ・ジャック&ベティ(黄金町)といった、こだわりのラインナップで経営を続ける良質なミニシアターもある。こういう状況下だからこそ、いわゆる横の繋がりで連携を深めることは考えていないのだろうか。

佐古氏「実は、始めてみようかと相談をさせていただいているところなんです。チラシの交換はもちろんですが、いずれ予告編の交換なども出来たら……というお話をしています。コロナで直接会えない状況ではあるのですが、以前から気にかけていただいていますし、実現したいですね」

宮澤氏「もしかしたら、こういう状況でなければ動き始まらなかったのかもしれません。ミニシアターって、どこも大変なことになっているじゃないですか。協力し合って乗り越えていこうよという行動ができたらなと感じています。お客様が行き来してくださるようになるのが理想ですね」

kino cinemaは、木下工務店をはじめ不動産、病院、介護、保育、学校法人などで構成されている木下グループの傘下にあり、新型コロナウイルスの感染予防対策には万全を期している。「グループ会社に病院もありますので、従業員にPCR検査を受けさせてくれるなど、バックアップ体制がしっかりしています。kino cinemaでは、キノシールドも施工していますから、安心して映画をご覧いただけると思っています」(宮澤氏)。

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上述の通り、グループ傘下にある木下抗菌サービスの抗ウイルス・抗菌・防臭剤「キノシールド」を、既に施工済みだ。この日の取材では、同社の川村卓也社長にも同席してもらい、話を聞いた。

多くの映画館だけでなく、複合施設や病院などでも施工実績のあるキノシールドは、酸化チタン(抗ウイルス・抗菌)、銀イオン(消臭)、プラチナ(空気浄化)を組み合わせることで、それぞれが持つ効果を相乗的に発揮。太陽光だけでなく照明などの光に反応して空気浄化作用を繰り返すそうだが、夜間や暗所でも抗菌・消臭効果をうながすようで、効果は1年間持続するという。

川村社長は、「光触媒の業界ってすごく単価が高くて、お金持ちじゃないと手が届かないような商材だったんです。ただ、調べていくと本来そんなに高い商品ではない。それにこういう時期ですから、一般のお客様でも手の届く分かりやすい価格帯(50平米までは一律4万8000円)を実現しました」と話す。新型コロナウイルスの感染拡大により、需要は一気に増えているようで、「全国でFC展開すべく、施工代理店さんを集めています。目に見えない商材だけに、施工にすごく気を遣っています。せっかくお金を出していただくんですから、どれだけ施工基準を守ってきちんと施工するか。それが使命ですから」と力強く語った。

横浜エリアは、都内に比べると人口比率で決して映画館が多いというわけではなかった。JR横浜駅周辺では駅直結のT・ジョイ横浜が開業したばかりだが、それ以前は相鉄ムービル(現・ムービル)の孤軍奮闘が続いた。みなとみらい地区の映画館事情もここ数年で様変わりしている。1999年にワーナー・マイカル・シネマズみなとみらい(現・イオンシネマみなとみらい)が開業したが、10年にはJR桜木町駅の目の前に横浜ブルク13がオープン。同エリアは華やかなイメージが付いて回るが、観光客で賑わうのは基本的に週末や祭日に限られる。オフィス街でもあるため平日は閑散としていることも多く、最後発ともいえるkino cinemaは、他社と差別化をはかった作品選定が当初から構想としてあったはずだ。

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宮澤氏「今年2月7日から、kino festival(キノフェス)という企画をやってみたんです。他の劇場では見ることが出来ない作品を、kino cinema横浜だけで40本ほど上映しました。その中には良作が結構あったんですね。その時は1日1回しか上映できなかったのですが、来場された方々にシールを渡して、良かったと思う作品に投票してもらいました。評判が良かった作品は、営業再開後に再上映という形で一定期間上映させていただいています」

公開延期になっていた作品の新たな公開日が決まり始めたこともあり、この取り組みで再上映する作品のスケジュールは流動的にならざるを得ないが、今後も積極的に継続していく予定だ。ちなみに投票数が多かった作品の幾つかを紹介させてもらうと……、ミラ・クニス主演のスパイアクション映画「スパイ・フー・ダンプト・ミー」、1993年のパリを舞台にしたクリストフ・オノレ監督の仏映画「ソーリー・エンジェル」、ケイシー・アフレックが監督・脚本・主演を務めた意欲作「ライト・オブ・マイ・ライフ」などが挙げられる。

佐古氏は、キノフェスのチラシを見つめながら「このコラムのタイトルの通りなんですよね。家で見るのももちろん良いのですが、やっぱり映画は映画館で見ていただきたいです」と胸中を明かす。宮澤氏も、「ロビーに来て、映画館の雰囲気を楽しんでいただきたいですね。チラシを取りに来るだけでも、トイレを使うだけでもいいんです」と追随する。

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最後に佐古氏は、「映画館ってオープンな場所なので、映画をご覧にならなくても、映画館そのものを楽しんでもらえたら嬉しいです。(劇場に上がる階段の途中で出迎えてくれる)パディントンの写真を撮りに来るだけでも構いませんから。もちろん、映画を見るために来ていただけたら、それに勝るものはありませんけど」と笑みをこぼした。

筆者紹介

大塚史貴のコラム

大塚史貴(おおつか・ふみたか)。映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。

Twitter:@com56362672

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