コラム:若林ゆり 舞台.com - 第87回

2020年3月3日更新

若林ゆり 舞台.com

第87回:「ボディガード」の柚希礼音が歌姫に扮し、ついに叶える“守られたい願望”!

撮影/若林ゆり ヘアメイク/CHIHARU スタイリスト/間山雄紀(M0)
撮影/若林ゆり ヘアメイク/CHIHARU スタイリスト/間山雄紀(M0)

1990年代、最もヒットしたラブロマンス映画のひとつが、ローレンス・カスダン監督の「ボディガード(1992)」だ。当時、脂の乗りきっていたケビン・コスナーが主演とプロデューサーを兼任し、コスナーの指名でヒロインを務めたのが、エンターテイナーとして頂上を極めるホイットニー・ヒューストンだった。自らの地位を思わせる歌姫レイチェルに扮したヒューストンと、寡黙なボディガード・フランク役で男っぽい魅力を体現したコスナー。ふたりの恋路とハラハラさせるサスペンス要素、そしてヒューストンが歌う主題歌「I Will Always Love You」のパワーが加わって、まさに最強の1作である。

この名画が2012年、ロンドンでミュージカルとして生まれ変わった。演出・振付は、スティーブン・スピルバーグ製作総指揮のミュージカルドラマ「SMASH(スマッシュ)」の振付でエミー賞に輝いた、ジョシュア・ベルガッセ。主題歌のみならず、ヒューストンのヒット曲を随所にちりばめたこのステージはロンドンで大成功し、さらに世界ツアーへ。19年の秋には来日公演も行われ、評判を呼んだ。そしてこの春、本作の日本キャスト版が、演出も新たにいよいよ開幕。ヒロインの歌姫レイチェル役を新妻聖子とダブルキャストで務めるのが、元宝塚歌劇トップスターの柚希礼音だ。

「映画の『ボディガード』は、私がまだ宝塚に入る前に見てハマりまして。ずーっと『エンダーー』(『I Will Always Love You』のサビ部分、『And I Will~』の歌いだし)って歌っていました(笑)。まさか、それを自分がやることになるなんて。だからその頃の私を知っている同級生からは『すごい、“エンダー”やんの?』と言われます(笑)。映画を見て思ったのは、『私もあんなカッコいい男性に、あんな風に命がけで守られたい!』ってことですよ。あの映画を見た人はみんな思いますよね(笑)?」

ところが少女柚希はその後、宝塚で男役となり、ひたすら「守る側」のカッコよさを追求することになるのだった。

「男役をしていたときは、もちろん『ボディガード』のフランクは目指すところの一例でした。よくそれに近いことはやっていましたよ。(相手役を)お姫様抱っこもしていましたし。ひとりの女性として“守られたい願望”はずーっと持っていたんですけどね。だから今回は、やっと夢が叶います(笑)。今回、フランクを演じる大谷亮平さんは、朴訥とした雰囲気が、自分が想像していたボディガードのイメージにぴったり。どの国のボディガードより素敵だと思います」

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しかもこのミュージカルは、レイチェルによるショー場面が映画より格段にパワーアップ。抜群のダンス力を誇る柚希は、パンチの効いたパフォーマンスを見せてくれるはず。

「観客としてスコットランドと東京、韓国バージョンを見ましたが、幕が開いた途端に、ガンガン音楽が鳴っているクラブでノリノリのショーを見せて、いきなりすごく盛り上がるんです。しっとりとしたロマンスの部分との緩急があって、その分、映画より見やすいんじゃないかな。ただ展開が早い分、細やかな心情の変化をしっかり演じていかないと。ショーの部分が強いので、『なんとなくショーを見た』という印象だけでお客様が帰っていかれるのは絶対に避けたいんです」

演じるレイチェルは、人々に「すべてを持っている」と言われる大スター。しかし、スターであることによって妬まれたり誤解されたり危険にさらされたりと、いろいろなものを抱えて生きている。スターである柚希だからこそ、分かることがあるのは道理なのだ。

「めっちゃ共感してます。例えば『客席にストーカーがいたとしても、他のお客様が待っているなら怖いけど出る!』という気持ちとか。自分の仕事にすごく誇りと責任感を持っているんですよね。他人からは『すべてを持っている』なんて言われますけど、実はレイチェルが持っているのは歌うことと、息子くらい。ひとりの女性として本当に欲しいものは、あんまり持っていないんです。自由もないし、頼れる人もいない。恐らく子どもの父親と大恋愛をして、すごくつらい別れを経験したんでしょう。そこからは心の傷も脆さも隠して『自分ひとりで立って、歩いて行く』と決意しなきゃならなかった。フランクに会ったときも、大好きな人を作らないように鎧を被っているから、すぐ恋愛関係にはならない。だから恋に落ちたときは、想像を絶するくらい幸せを感じているんだろうな。ただ守られている弱い女ではない。そこに共感します」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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