コラム:若林ゆり 舞台.com - 第73回
2018年11月22日更新
第73回:三谷幸喜のミューズ、シルビア・グラブが新作ミュージカルであの人物に!?
演劇・映画の両方で、徹底したエンタテインメントを生み出し続けている三谷幸喜。彼がまた、オリジナリティあふれる新しい舞台作品を企んでいる。久しぶりのミュージカルで、タイトルはなんと「日本の歴史」。卑弥呼の時代から太平洋戦争まで1700年にわたる物語を2時間半にぎゅぎゅっとまとめ、三谷お気に入りの精鋭キャスト7人が50人以上の人物となって歌い、踊り、演じるというのだ!
キャストでいちばんの目玉は、中井貴一が長いキャリアの中で初めてミュージカルに挑むというところだろうか。さらに、香取慎吾、新納慎也、川平慈英、シルビア・グラブ、宮澤エマ、秋元才加と、ミュージカル経験も実績もバッチリな面々。いったいどんな作品になるのか? 謎に包まれた新作の魅力を、歌・ダンス・演技と三拍子揃った実力派ミュージカル女優であり、三谷作品「国民の映画」では読売演劇大賞優秀女優賞に輝いたシルビア・グラブに語ってもらおう。
「この作品、最初に脚本を読んだときには、さっぱりわからなかったんですよ」と、シルビアは言う。これは彼女だけの反応ではない。キャスト陣みんなが、読んだとき「?」となったと言っている。
「とにかく登場人物がいっぱいいるし、場面転換もすごくめまぐるしいので、普通に読んでいても消化しきれない。ついていけなかったんです(笑)。これをお客さんの前でやったとき、どういう反応が返ってくるのかな? 私たちが読んで理解できなかったことを、お客さんにちゃんと理解してもらえるのかな? それが最初の印象でした」
ところがその印象は、稽古場でガラリと変わっていったのだそう。
「この間、中井さんがすごくいいことを言ったんです。『これは読むホンじゃない、役者がやってナンボのホンなんだ』って。つまり、『役者が演じることによって1次元だったものが3次元になり、どんどん立体化して奥行きが出てくる。そこは役者が立ってやらないとわからないものなんだ。三谷さん作品の特徴はそれだね』って。『なるほどな!』と思いました。いま、だいたい3日で1幕というすごいペースで稽古が進んでいるんですけど、やっていくうちに、後半部分でハタと『なんて面白いホンなんだろう!』という発見があったんです。前半はいろんなキャラ紹介があって、2幕では三谷さんが言いたいことの本質の部分が、わーっと出てくる。たとえば田代栄助さんが出てくるところでは『うわっ、なんてドラマティックなんだろう!』と感動してしまいました。前半でまいた種が、歴史の中で繰り返し繰り返し出てくるんですけど、あるところでパズルのピースみたいにパチッとはまって。『こんな深いことを三谷さんは言おうとしているんだ』と思ったら、知らない間に涙ぐんでいたんです」
「国民の映画」がそうだったように、この作品も案外「コメディ要素より、ドラマ性の強い作品なのかも」とシルビアは言う。しかし、笑える要素がたっぷりあることは間違いない。なんといっても「日本の歴史」なのに、父親がスイス人であるシルビアを含め、キャストの半数以上が外国人の血を引いている濃い人たち! その人たちにアッと驚く役を振っている時点で、かなりおかしいのだ。
「中井さん以外はみんな見事に日本の歴史を知らないんですけど(笑)、このメンバーで年齢も性別もごちゃまぜな役をいっぱいやるんですから、そりゃあ相当、面白いと思います。私も、演じる歴史上の人物は男性の方が多いんですよ(笑)。三谷さんの絶妙なキャスティングセンスで、ビジュアル的には“出オチ”も盛りだくさんですので(笑)。私は前回三谷さんとご一緒した『ショーガール Vol.2』のときから『織田信長をやってほしい』と言われていたんです。それでいま稽古場で、信長のところだけは一度も三谷さんからダメ出しがない(笑)。何なんでしょうね? 幕末では私、西郷さんをやります(笑)。ジェイ(川平)さんが岩倉具視で。この人たちがね、東京の言葉をしゃべる人たちじゃないんです。これがヤバい(笑)。私は生まれて初めて方言でしゃべりました。三谷さんは、私たちが慣れたものは与えたがらなくて、いつも新しい課題をくださるんです。いちばん最初にやった『ショーガール』のとき、私の役は“地味な女”。『やったことないわー』って(笑)。三谷さんはそんな私の葛藤している姿が楽しいらしくて。絶対、普通ではいさせてくれないんです」
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka