コラム:若林ゆり 舞台.com - 第31回
2015年7月24日更新
第31回:ダメよ~ダメダメだけじゃない! 日本エレキテル連合が2度目の単独公演「死電区間」で停電から復活!
「ダメよ~ダメダメ!」で一世を風靡した日本エレキテル連合は、まだその真価を十分には知られていない。中野聡子と橋本小雪のコンビが生み出す独創的なコントは、設定やディテールに過剰なまでのこだわりが詰め込まれた笑いのワンダーランド。彼女たちが約3年前から毎日ネタ動画をアップし続けているYouTubeのチャンネル“感電パラレル(感パラ)”を見れば、すぐにわかる。異様でブザマで、だからこそ愛すべきキャラクターたちが織りなす世界は「この世の中で生きにくい」人々の悲哀と滑稽さ、エロさとキモさを発散してゾクゾクさせるのだ!
その日本エレキテル連合の単独公演第2弾にして全国ツアー公演「死電区間」がいよいよ開幕。演劇的でありながら映画的な感性をも感じさせる、彼女たちのワンダーランドへといざなってもらおう。たとえばキャラクターたちが1つの世界を形づくり、そのキャラクターたちが勝手にストーリーを動かすというところはクエンティン・タランティーノ的でもあるし、シュールな方向へねじれるホラーじみた展開を見せるシリーズもある。実際、映画からの影響も?
中野「映画は好きでよく見ますし、刺激を受けることはもちろんよくあります。たとえば前に『黒い家』という映画を見て、その狂気のキマり方がすごいなと思ったんですね。作品の中で大竹しのぶさんや西村雅彦さんが出していた“気持ち悪さ”を表現したくて作ったのが『TSUTOMU』っていうシリーズ。ずっと首が曲がっているという動画を撮りました」
橋本「昨日も園子温さんの作品と、江戸川乱歩さんのオムニバス、それから加賀まりこさんの『月曜日のユカ』のDVDを借りてきました。どんなジャンルでも、見ることで何か得られることがないかなぁと思って。よくDVDを借りてきては中野さんと2人で見て、感想を言い合ったりしています」
2人が生みだすコントの独自性は、やはりその異様さにある。「うげー」と叫びながら笑ってしまうような、不思議な魅力があってクセになるのだ。「見てくれる人のトラウマになりたい」というこの芸風は、どこから来ているんだろう。
中野「映画の『シャイニング』を初めて見たとき、すごく衝撃を受けたんですね。途中で挿し込まれる意味のわからないカットとかがあるじゃないですか。それを大人になってから、『あれって何だったんだろう!?』って見返したくなったんです。そういう風に、何かちょっと覚えていて『何だったんだろう?』って思うのが、私の場合はいつも気持ち悪いものだったんですよ。だから『何だったんだろう!?』の種を蒔いて、後から掘り起こしてほしい。トラウマってけっこう長く残るものだから。誰かの中に長く残りたくて、そこを大事にしています」
橋本「私も、黒澤明監督の『夢』という映画を昔、テレビで見て。ストーリーとかはほとんど覚えていないのに、シーンとして頭に残っている映像がある。そういうのも一種のトラウマだなあって思うし、頭の中に残り続けるようなものを作りたいんです」
中野と橋本が出会ったのは、お笑い養成学校の同期としてだった。初め、「ただ目立ちたくて入ってきただけで面白くも何ともない」と橋本を軽蔑していた中野に、橋本が「私とコンビを組んで」と土下座で懇願したというのは有名な話。しかし、これがいまでは割れ鍋に綴じ蓋というかベターハーフというかおあつらえ向きというか、まさに運命の相手。補完し合い、お互いになくてはならない、この上なくピッタリな相方となっているんだから面白い。
中野「本当に、彼女じゃないと私は成立していないなと思うくらい、理想的な相方です。私、子どものころお人形遊びが大好きだったんですけど、いま、橋本でそれをやっている感じ。お人形に洋服を着せて、それを動かしてって。お人形は文句言わない。橋本も文句を言わないんです。彼女はされるがままになることが嫌じゃないので、そういう人に出会えたってことが幸せだなと思いますね」
橋本「私は逆に指示してほしいし、次はどんな司令が来るんだろうって楽しみにしているんです。私は設定とか面白いことを考えられない。こんな人でこういうセリフまわしで、なんてことはまったく考えられないので、ただただ中野さんが言うこと、思い描いているものを完璧に表現していきたい、という思いでやってます」
中野「彼女は何もない。自己顕示欲だとか自我を捨ててくれたので、私の色にすぐ染まってくれるんです。最高の役者ですよ。自分がやりたいこともあるだろうし、最初は目立ちたいから入ってきたのに、ただ私の言うことをやるという一点に徹してくれて」
橋本「こっちも気を遣ってるというんじゃなくて、ネタを作ってもらっているわけだから、平等になるようにと思って一生懸命やってます。中野さんは私が立つようにしてくれてますし。私は他力本願で生きているので」
中野「そうね、いつも人に助けてもらっているんです、この人は。助けたくなる魅力があるからなんですけど。なので、自分に有益なものを見つける嗅覚はすごいんですよ!」
橋本「それで中野さんにパラサイトして、いまに至ります(笑)」
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka