コラム:若林ゆり 舞台.com - 第13回
2014年8月8日更新
第13回:菅田将暉が、蜷川演出・男性キャストのみの「ロミオとジュリエット」で「不純」なロミオに挑戦!
そう、ロミオは恋する男のバカさをいっぱい抱えた男でもあるのだ。そして、おしゃべり!
「そうなんですよ、状況説明も含め、自分の感情を入れていく台詞がやたら長い。ようしゃべるんですよ!(笑) 美しい言葉で構成されているから成立するものではあるけれど、言っていることといえば『なんであいつは振り向いてくれへんねん、俺はこんなに好きやのに』というのを8ページくらいにわたって延々(笑)。不純さというのも、若いとき特有の素直さでもあるし。本能のままで生きている感じですね。“若さ”や“パワー”を大事にしたい。世界が狭いんですよ、彼らはすごく。現代だと部活をしたり映画を見たり、エンターテインメントはありますけど、彼らの周りにはないんです。まあ友達と遊ぶといってもお酒を飲んだり、ケンカしてたり。で、あとは恋。あまりものがない世界だからこそ、感情を爆発させるとなるとそこなんでしょうね。でもロミオの素直なところは、いちばん共感できるところかもしれない」
相手役を演じるのは、蜷川幸雄のオールメール・シリーズの看板娘役、月川悠貴。初共演だが息はピッタリだ。
「経験のある方が相手というのは本当に心強いです。最初のバルコニーのシーンでも、上にジュリエットがいて、下でロミオが話をしているっていう構図を見ると、恋したときに端から見て滑稽なのは男だなぁって気がしていて。その感じはすごく出そうな気がするんです。ロミオとジュリエットの存在はかわいく見えた方がいいし、どこが美しく見えたらいいかというと、2人の想いだと思う。月川さんは大人なので色気もあるし、身体的な美しさもありますから。それに、なかなかほかの作品だと言えない台詞がいっぱい出てくるんです。『君の小鳥になりたい』だったり、唇の罪についての台詞とか。なんだよそのやりとりって!(笑) ふと俯瞰で見ると思いますね。でもさらっとやってのけてしまいたい、いやらしくなく。月川さん相手なら、よけいなこと何も考えずにできますから。稽古場でも普通に、さらーっとキスしてましたしね」
すべて男性キャスト、という現場についても「とくに気にならない」という。
「もともと別人格になっているんで、いまさら男だの女だのっていうことはたいして興味がない。『あ、そういえば全員男だったね』くらいな感じですね。お芝居をするときに、性別は関係ないと思うんですよ。対人間として接することができる人が共演者だとありがたいですね。そういえば、この作品の前に撮影した映画で、僕以外の共演者が全員女性ってことが多かったんです。でもふたを開けてみたら、みんなでご飯を食べにいったりして。ふと、『あ、男オレだけか』という感じでした」
稽古初日、稽古場で蜷川に「お前、ワルい顔してんなぁ」とうれしそうに言われたという菅田。「僕には割と、やさしく接してくださってます(笑)」という蜷川に食らいついてたくさんの質問をし、「笑顔を向けてくれている間に好きなことをいっぱいやってみた」。その稽古を通して、「舞台の仕事が好きになりつつあるのを感じている」という。
「実際は映像と舞台で、役者がやることはそんなに大きく変わるというわけでもないと思うんです。空間の意識の違いだけで。声も、映像だと2人の会話は相手に届けばいい。でも舞台は、声を大きく出そうとしてもなかなか出ない。ただ客席に届けようと意識すれば声は大きくなるし、聞こえるようになるんです。あとは状況ごとの体の動き。でもそれはカメラワークをどうやって抜けようか、みたいなことと変わらなかったりもするんですよ。強いて違いをいうなら何回もやるということかな。本番が1回じゃない。あとはナマで、お客さんの前でできることですね。一見矛盾したものを、さあどう見せようかっていうところにクリエイティブな気持ちよさを感じます。だからいつか、キャパ300人くらいの小さい劇場で現代劇をやってみたいと思っているんです」
NINAGAWA×SHAKESPEARE LEGEND I「ロミオとジュリエット」は8月24日まで、彩の国さいたま芸術劇場小ホールで上演中。当日券あり。
詳しい情報は劇場の公式HPへ。
http://www.saf.or.jp/stages/detail/1160
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka