コラム:若林ゆり 舞台.com - 第116回

2023年7月6日更新

若林ゆり 舞台.com
稽古場で、サティーン役の平原綾香(左)と
稽古場で、サティーン役の平原綾香(左)と

ナイトクラブ「ムーラン・ルージュ」の花形スターで高級娼婦のサティーンと恋に落ち、ほとんどの場面でさまざまな感情を歌っていくクリスチャン。役づくりについては「キャラクターをどうしようというよりは、いかにこの台本を読み解いて、クリスチャンという人間をちゃんとわかるか」が鍵だという。

「いちばん大事なことは、クリスチャンがこの作品においてどういう立ち位置なのかをしっかり見極めることだと思っています。実はクリスチャンって、この3時間の劇のなかで時間軸が違う居方をするんですよ。映画版では、タイピングしているシーンがありますよね。この『ムーラン・ルージュ!』という物語を書いているクリスチャンと、その物語のなかにいるクリスチャン。クリスチャンは冒頭で『この物語はこういう物語だ』って語るんです。『じゃあ始めよう、あの頃の僕とサティーンの物語を』と。そういうストーリーテラーとしての立ち位置もある。と同時に、物語のなかでは、サティーンから見たクリスチャンの姿もある」

サティーン役の平原綾香(左)と
サティーン役の平原綾香(左)と

「クリスチャンを通して、お客様が『愛ってこういうものなのか』と感じるんですね。僕としては、最初のクリスチャンといちばん最後のクリスチャンで変わっていたいなと思います。やっぱり愛を知った顔になるわけですから。最初の方は、もう青くて恋に焦がれていて、何も怖くない青年。そこからある人を愛して、そして失っていく。3時間の間でどう変わっていくのかを表現したいという目標はあります。たとえば映画でも印象的なオリジナル曲『Come What May』は2幕の始めの方と、2幕の終わりにもリプライズ(繰り返し)として歌うんですけれど、同じ歌詞なのに意味合いがまるで違うんです。『こんな気持ちになるなんて初めてだ』と歌うその気持ちが、愛を知って恋い焦がれているのと愛を失ったあとで。そこも痺れますね」

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めくるめく大人の劇場「ムーラン・ルージュ」の世界に飛び込んで成長していくクリスチャンは、甲斐本人にとっても共感ポイントでいっぱいだ。

「自分の人生もいま変わっているなと感じますし、重なる部分はすごくあります。この物語って、いまの現実に対する突破口だと思うんです。人生のなかで憤りとか、物足りなさを感じている方は、きっとたくさんいらっしゃいますよね。クリスチャンはそれまでの現実を変えたくてパリにやってきた。実際に人生がどんどん変わっていく彼の姿を見て、観客のみなさんは何を思うのか。それも楽しみですね。きっと物語が終わって愛を知ったクリスチャンを見て『これって愛の物語だったんだ』と感じ、また最初から見たくなると思うんです。最後に愛を知った状態のクリスチャンが物語を始めているから、それをふまえて見るとまた見方が変わってくると思う。実は何度見ても『こうだったのか』という発見がすごく多い作品だと思います」

サティーン役の平原綾香(左)と
サティーン役の平原綾香(左)と

クリスチャンに愛を教える妖艶なサティーン役は、シンガーソングライターの平原綾香と、宝塚出身でやはり抜群の歌唱力を誇る望海風斗のふたり。

「平原さんは、みんなを自然と引き寄せるような人。不思議な力があると感じさせる人って、たまにいるじゃないですか? 無条件に愛を寄せつけてしまうような、そういうサティーンのイメージです。望海さんは本当にみんなのことをちゃんと観察していて、いざというときすっと手を差し伸べて助けてくれるようなイメージ。頼りにされているんだけど、だからこそ、そのサティーンがひとりになったときの脆さみたいなところを見ると、その対比にグッとくる人が多いんじゃないかなと思います。どちらのサティーンも全然違っていて、魅力的なんです。クリスチャンとしても楽しみですね」

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めくるめく帝劇で「ムーラン・ルージュ!」の世界へ飛び込み、ミュージカルへの純愛を貫き、成長する甲斐翔真の姿にキュンとするのも、この作品の楽しみに違いない。とにかく「この作品で旋風を起こしたい」と、彼の瞳は燃えている。

「僕はいままで海外でたくさんの素晴らしいミュージカルを見てきましたが、日本もそのレベルに来たな、と実感する毎日。僕なんかが言うのもおこがましいですけど。まさに自分が憧れた場所に立っているな、と思います。もう痺れポイントがいっぱいですから。日本ミュージカル界でまさにいま起きている革命を見て、肌で感じてほしい。見逃したら本当にもったいないです!」

「ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル」は、8月31日まで東京・日比谷の帝国劇場で上演中。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/moulinmusical_japan/)で確認できる。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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