コラム:若林ゆり 舞台.com - 第111回
2022年12月29日更新
そう、例えれば、「鎌倉殿の13人」の最初の5話くらいにおける北条義時のような。まだ純粋そのものといったチェーザレなのだ。それに対して、岡扮するジュリアーノは、チェーザレの父ロドリゴ(別所哲也)と激しく対立。将来的には教皇ユリウス2世となり、チェーザレをいたぶるしたたか者だ。
中川 岡さんはイタリアで、ジュリアーノが実際に住んでいた建物を使ったホテルに泊まったとか。ジュリアーノは芸術を愛する人だったんですよね。
岡 そう、そこ共感ポイント(笑)。いま芸術が育たないのはパトロンがいないからなんだよ。昔はジュリアーノみたいなパトロンがいて、ミケランジェロとかにお金じゃんじゃん使って、「ほかの人が作らないようなもん作って」って言うからすごい芸術が生まれてきた。だからジュリアーノはルネッサンスを芸術で満たした、実はいい人なんだよ。だけど結局、彼はものすごく信仰心が強かったんだよね。だから今回、お祈りのシーンが増えたことで、だいぶ救われたんだ。
中川 岡さんは衣装の着こなしにもこだわりを感じます。
岡 あれはイタリアの生地を使った、すごく贅沢な衣装。主な出番が2場面しかないのに、ちゃんと2着作ってくれる明治座さんに本気を感じます(笑)。その衣装が、衣装として見えちゃったら自分は0点だと思うんだよね。だってその人が当時着ている私服なわけだから。それが舞台上で似合ってなかったりサイズ感が違ってたりっていうのは、てんでおかしい話で。だからちゃんと似合うためには、ちゃんと自分で「ここは2センチ詰めて」とか言った方がいいし、自分で言うには自分の身体を勉強した方がいい。私は稽古着にもこだわるよ。
中川 それ、わかります。「モーツァルト」のときも、小池修一郎先生から「本番でモーツァルトはデニムを履きます」と。「この時代はそうじゃないんだけど今回デニムだから。デニムであの動きができるか、動きやすいかどうか知るために、ちゃんと履いてきなさい」と言われて。作品の世界と稽古場は地続きだって教わった気がしています。岡さんは、刺客として使うラファエル役の丘山晴己さんとも、すでに関係性を築いていますよね? 稽古場でのおふたりがすごいオーラで(笑)。今日も丘山さんが岡さんの話を熱心に聞いていましたが、あれ、何を話していたんですか?
岡 昨日マントをフッと脱いで、後ろについてる子に渡したとき、振り返って「ありがとう」って言ったの、彼が。それで「自分の下の者にはお礼なんて言わないでしょう、この当時は」という話をしていて。「小者に見えるよ」って。
中川 さすがです! 勉強になります。
実力者同士心から信頼し合う、よき先輩・後輩である岡と中川。その根底にあるのは、やはりミュージカルへの愛だ。それをひしひしと感じさせられたのは、「この作品で観客に何を感じ、何を受け取ってもらいたいか?」という質問を投げかけたときのこと。
中川 まずは音楽。音楽がある演劇、つまりミュージカルがオリジナルとして生まれてくる、この明治座から。そこに必然性みたいなものを感じるんですね。そこが僕にとっては始まりで。島健さんオリジナルの音楽に、何を感じ取るか。受け取る人の感性というものが、原作の惣領先生も描きたかった何かが見えてくるポイントなんじゃないかなと思うんですよ。この作品は言葉も歌詞も、すごく美しいんです。その美しい日本語に音が乗ったときに、役者としてその歌をどういうふうに演じるかという、これは俳優のすごくやりがいだと思っていて。それをオリジナルキャストのチェーザレとして初めてお客様に届けるとき、劇場に来たお客様に経験として味わってもらいたいと思うんです。
岡 ミュージカルに偏見持っていて、「いきなり歌いだすから嫌い」だとか言う人がまだいるじゃないですか。中川晃教の魅力は、そこがすごくうまいところ。ミュージカルなんだけど、「悪い意味でのミュージカルになっていない」と思わせるんです。しゃべっていたのがいきなりワーッて歌い出すんじゃなくて、ちゃんとこの芝居のその前のセリフの芝居のテンションから気持ちで歌い出して、「ああ、ここで歌を歌って当たり前だな」みたいな歌い方をする。そこが本当に上手なの。だから、「ミュージカルは急に歌い出す」とかいうイメージを払拭するためには、みんな中川晃教を見てもらいたい。日本のミュージカルってのはまんざら捨てたもんじゃないんだ、と思わせたいもん。しかも明治座でやるんだよ。劇場あるのは浜町だよ。浜町にミュージカル見に行くって、いまちょっとおしゃれな感じがするじゃない。
中川 いろんな劇場ありますけど、150年の歴史って一番古いんですよね! しかも上演が延びたことで150周年に当たったって、こんな必然ないですよね。まさに運命的。
岡 その明治座が初めてオーケストラピットを開けるんだよ。って、そこばかり前面に打ち出しすぎだけど(笑)、ここでルネッサンスを味わえるんですよ。
中川 浜町でね。
岡 いいじゃない、“浜町ルネッサンス”! 地元でたい焼き売っている人たちが、みんなルネッサンス色に染まったりしてね。赤坂が「ハリー・ポッター」色に染まっているみたいにさ。自分がミュージカル好きからミュージカル俳優になった人間だから、考えるんだよ。作品を俯瞰して見て、どうやったら見に来た人たちの気分が上がるんだろうとかね。若い頃、1回舞台見るっていうのがどれだけ自分のなかで大きかったか。そこで失敗したらもう悔しくてしょうがない。そういう子がいまもいるかもしれないでしょ。バイトして貯めたお金で1万何千円払って見に来て「嘘でしょこれ?」って思わせるのは、すごく嫌。
中川 だから真剣ですよね。
岡 そう、だからプロデューサー的な見方をついしちゃうんだよ。今回はこれ、“浜町ルネッサンス、開幕!”で決まりだね(笑)。
ミュージカル「チェーザレ・ボルジア 破壊の創造者」は23年1月7日~2月5日、明治座で上演される。詳しい情報は公式サイト(https://www.cesare-stage.com)で確認できる。
コラム
筆者紹介
若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。
Twitter:@qtyuriwaka