コラム:若林ゆり 舞台.com - 第111回

2022年12月29日更新

若林ゆり 舞台.com

第111回:コロナ禍で中止からの復活! ミュージカル界の実力派・中川晃教岡幸二郎が熱く語る「チェーザレ」“浜町ルネッサンス、開幕!”

「チェーザレ」で共演する中川晃教&岡幸二郎
「チェーザレ」で共演する中川晃教&岡幸二郎

2020年の早春、筆者はミュージカル「チェーザレ 破壊の創造者」の稽古場を訪れていた。この作品は、ルネッサンス期のイタリアで権力争いに身を投じたチェーザレ・ボルジアが、16歳だった頃の青春を描く歴史大作。惣領冬実氏のコミックを原作として、明治座が初めて企画した肝いりのオリジナルミュージカルだ。2年8カ月ほど前の稽古場では、チェーザレ役の中川晃教を始めとするキャストと演出家の小山ゆうなが意見を交わし合い、切磋琢磨しながら「よりよい舞台を見せたい」と情熱を燃やしていた。ところが、その情熱は突然水をかけられたように、あっけなく鎮火されてしまう。新型コロナウイルスの感染拡大で、4月から開幕するはずだった公演が急遽、中止となってしまったのだ。

その無念を晴らす日が来る。23年の1月から明治座で、やっと開幕することに。折しも23年は、明治座150周年となる記念の年。なんとめでたいではないか。そこで、再びチェーザレに向き合う中川と、チェーザレと敵対する枢機卿、ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレ役を演じるミュージカル界のベテラン、岡幸二郎というめずらしい顔合わせ(なんとミュージカルでの共演は01年の「キャンディード」以来!)で話を聞いた。

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まずは2年8カ月前、思いを断ち切られてしまった苦い経験を経て、再びこの作品と向き合ったときの気持ちは?

中川 先日、稽古初日顔合わせのときに思ったのは、あの日止まったままだったいろいろなものが、3年近い月日を経てまた歩き出したんだと。あのときと同じ稽古場だったので、そのときの空気とか景色がふわーっとよみがえってきて。ミイラじゃないですけど密封されたときのまま、綺麗なまま保存されていたものが、息を吹き返してまた色鮮やかに始まるんだな、動きだすんだなと思うとうれしかったですね。

岡 2020年は、コロナというものがどんなものだかまだわからない時期に中止となってしまって。大きな舞台では初めてだったんじゃないかな。いきなりメールで「もう稽古場での稽古は終わりです、本番もやれません」と。ぼんやりとしたショックで。荷物を取りに行けない、みんなに「またね」も言えない。こんなことってあるんだ、と思いました。今回この再開に向けては「少しずつ戻りつつあるんだな」という部分と、中止になった作品がたくさんあって、いまだ行われないままの作品もいっぱいあるなかで、「ちゃんとやっていただける」というありがたさ。そこには「どうしてもこれをやる」という明治座さんの熱を感じました。

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やっと再開した今回の稽古場では、前回と比べてどういう違いを感じているのだろう。

中川 3年近く経っても、忘れているだろうなーと思ったすべてが鮮やかによみがえってきて。でも同じことをやろうとしているわけではない。キャストも面白い新メンバーが加わっていますし。作ってきたことに戻りながらも、そこからまた新たな進化、もっとより深めていけないだろうかという作業で。作ってきたものを壊して、またそこから作っていこうとしています。当時の記憶とかそのシーンや、役づくりへの思いみたいなものに蓋をして、そのまま真空保存されていたんですけど、私たちの時間は確実に過ぎていて。その間にいろんな経験をして、成長してきている。その経験がそうさせるのかな。稽古場にいる僕たちみんなが「オリジナルミュージカルのオリジナルキャストとして、描かれている以上のことを自分で描き足さなきゃ」という、プレッシャーではなく心構えを感じています。

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まさに、“破壊の創造者たち”! チェーザレ・ボルジアといえば、ドラマ「ボルジア家 愛と欲望の教皇一家」などで描かれるように、野望のために残忍な手段も行使する冷酷な権力者というイメージが強い人物。だが、惣領氏が史実を調べ尽くして描いたのは、そんなイメージがつく前の、まだ何もしていない16歳のチェーザレ。中川が抱くチェーザレ像は?

中川 演出の小山さんに、チェーザレはヨーロッパ史のなかで「ヒトラーやスターリンと並ぶ、黒い人物」だと教えてもらって。でも、そこに行き着く前の学生時代にフォーカスを絞って、史実を勉強してあの原作の世界にまで仕上げたのは惣領先生のこだわりですよね。僕は今回、前回とちょっと捉え方が変わった部分があるんです。大学で同級生たちに刺激を受けながら、正しいリーダーへの道は何かと考えているチェーザレは、ちょっとキラキラしていていいのかなと思っているんです。前回稽古場のときはそうではなく、思考し続けているとか、十手先十歩先を考えている芝居が必要なのかななんて。先入観で入っていたんですよね。

岡 わかる。だから前回の稽古場では、「あれ、これアッキーのチェーザレが成長していく話なのに、アッキー最初からずいぶんわかっちゃっているな」と思った。そこは、明確に変わってよかったと思う。

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中川 前回のチェーザレとして自分が思い描いていた役の印象よりもいまの方がより若く、少年っぽくなっていて。悩んでいるんですけど、その悩みさえも悩みと思っていないぐらい熱いというか、楽しいというか、好きというか、あるいは苦しいんです。父親という存在も含めて。そんなチェーザレが自然のなかに解放されたときに、「馬ってこうだな」とか、「自分の見ているトスカーナの景色ってこうだな」とか、「先人の知識ってこうだな」と思い、そこに太陽が輝いていたり草木が満ちていたり、何かそういうものに「神ってここにいるのかな」と思う。そういう純粋さ。そんなチェーザレ像が今回は見えてきています。

岡 これが難しいのは、チェーザレと言って一般人がもっている意識と違うってところだよね。一般に見に来るお客様は「え、中川くんがチェーザレ? ちょっとキャラ違うんじゃない?」って思うかもしれない。でもこの作品で見られるのは、あの黒さが形成される前の彼がどうなのか、を演じる中川くんでしょ。それをどう打ち出すかだよね。「アッキーがキャラの違う役やるんだね」で終わらせたくないから。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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