SHOGUN 将軍のドラマレビュー・感想・評価
シンプル&したたかなハリウッド大作
もちろん巨費を投じた、よくできたTVドラマです。なにしろポスプロ2年! そして10話で2億5000万ドル=360億円!という予算は北野武監督『首』の15倍以上です。現在の主流の映像文化を精密に研究して、それに合わせるべくカメラの操作も色調設計も、俳優のキャスティングも、すべてがチューニングされている(前作に比べて画面がヘンだという感想は、単に映像感覚が現在にアップデートされてないだけです)。それを見るおもしろさが、まず第一。
単なる外国人の視点だけではない、国内の政争と内紛をこまかくドラマ化しているのも、周到です。ここは予算関係ないはずだけど、日本の時代劇でこんなに陰翳にとんだ脚本はまず作れない。この面白さが第二ですね。
一方で、ハリウッド映画が延々とつくりつづけてきたアジア人蔑視…というか少なくとも「アジア人を異質なもの・珍奇なものとして見る」視線は、真田広之さんの奮闘にもかかわらず、しっかり残っています。
たとえば捕らえられた按針が、「こんな呪われた土地で死にたくない」「やつらの無気力な狂気には屈しない」とつぶやくところ。長年日本で布教をこころみたが挫折したイエズス会神父が、「日本人とゲームするのは無理だ。彼らのルールはあまりにも分かりにくく、彼らは決して本心を明かそうとしない」と吐き捨てるシーン。
日本に来たアメリカ人(とくに白人男性)と深くつきあったことのあるすべての日本人が聞き覚えのある言葉だと思いますが、このあたりは日本人・日本文化に対するまさに典型的なハリウッド流の視線なんですよね。そうした伝統的なハリウッド目線を、重厚正確な日本文化の映像(こまかく監修した日本の美術・衣装・大道具)と、たくみに張り合わせているのが、今回の『SHOGUN 将軍』の特徴で、これは真田さんたちが賢く選び取った戦略だと思います。
いずれにしても、これは「日本発のコンテンツがスゴい」ドラマでは全然なく、「一般観客にまったく馴染みのない日本の中世文化のドラマに巨費を投じてしまえるハリウッドがスゴい」ドラマ。映画だろうとTVだろうと日本の時代劇ではどうやっても撮れないショットの数々は、一見の価値があると思います。
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