ファルコン&ウィンター・ソルジャーのドラマレビュー・感想・評価
戦線を配信ドラマに広げても後10年は戦える!!
……と思わせてくれた作品です。
「卒業」する理由としては余りに完璧な大団円だった「エンドゲーム」から、え?まだやんの?と思った人も多い事でしょう。
これ以上何すんの?って皆が思うなか2021年から今度は配信だ!!という事でディズニー+で発表された本作。
元々友達に「マンダロリアン」を勧められてディズニー+に加入したのですが、せっかく入ったからついでに見るか…ぐらいの軽い気持ちで見始めたのがすべての始まりでした―。
「え?これ全部繋がってんの?」これが私がMCUという壮大なプロジェクトをちゃんと認識した時の反応です。そして次に「ダル・・・」。
たぶん劇場で「ブラックパンサー」が公開されていたぐらいの時期です。今は離れて暮らす弟のセルDVDコレクション。
ゲームと深夜アニメとゴジラが好きな我が愚弟がアニメや怪獣以外の映画を好きになっていること自体意外でしたが、それなら暇つぶしに自慢のコレクションの中からお勧め見せてよ。と要望し、彼のコレクションを見た際に教えられたのがこの事実です。
いやいや、定期的にアメコミヒーロー映画が製作されているのは知っていましたが、まさかその一つ一つが繋がっていて、しかもそれが知らぬ間に既に10年ぐらい続いていた訳なんですよ。作る方も見る方も何て物好きなんだ!!と驚愕いたしました!
そしてその際、弟が最初に勧めてきたのが「エクスペンダブルズ」だったのですが、いや~これがまた私の好みを完璧に捉えているんですよ!
でもね、それもう見たから…。と断って、このMCUの中からお勧め見せてよという事で、我が愚弟を映画の世界に導いたという「エイジ・オブ・ウルトロン」を二人で鑑賞したのです。
「ハー今の映画ってこんななんだ」と思いながらその迫力と尺の長さに呆気にとられましたが、数分に一度見せ場を作る演出が、逆に映画全体のメリハリを無くして単調だし、各々のキャラクターの見せ場はあるものの、だからといってキャラクターの掘り下げがあるわけでなし、台詞のやりとりで何となくの関係性が把握できるぐらいで、とにかく長尺でワチャワチャした映画だなぐらいの印象でした。これを今から10年分追いかけることは無いなと思ったのが正直なその時の感想です。
ただ、せっかく我が愚弟を深夜アニメの世界からほんの少し広い所へ連れ出してくれた作品を悪く言うのも気が引けたので、その後も弟に会うたびに、彼の解説付きで「アベンジャーズ」を中心に何作かMCUを見ました。
そして本作です。そんな中途半端な状態で再生し始めたらもうサムだとかバッキーだとか言われても全然ついていけないわけですよ。ロジャースとかスティーブとかキャップとか、同じ人物を違う名前で呼ぶのヤめな!とか思いながら、これMCUちゃんと見ないと楽しめないわ。と視聴を途中でやめ、絶対にないなと思っていたMCUの10年の系譜を追っていったわけなんです。
というのもこのドラマ、スケール感が映画そのままに感じられたんですよね。映画作品のドラマ(TV)版ってどうしてもスケールが小さくなるじゃないですか?それが全然ないんですよ。まさかドラマ形式でもこのスケール感でやるのかよ!?凄い時代になったもんだな!!とある種の感動を覚え、そして膨大なMCUをちゃんと見る決心をさせてくれたのです。
ちゃんと個々の作品を見ていったら全員集合系の映画はファンサービス的な位置付けであることが理解できました。
個々の作品では映画としての起承転結もしっかりしているし、キャラクターの掘り下げもそこで済ませたうえで一つの物語に集約させていくのがMCUの醍醐味なのかとようやく分かりました。
なので公開順で鑑賞していき最初の「アベンジャーズ」に辿り着いた時には(言っても6本だが)、この10年を追う行為に苦は無くなっていたのです!
そしてようやく準備を終えて再び本作に臨んだわけですが、素晴らしかった。
余りにも荷が重すぎる継承の物語。それは物語の中でもMCUを続けていくうえでもそうなんです。ですがそれを受け継いでゆく決意の過程を追い、その一方でもうそれはヒーローの手にも負えないだろうというテーマも盛り込まれており、いくら人命を救っても人の人生や生活は救えないというある種のヒーローの限界をも描いている意欲作です。ただそれでも戦う彼らの姿が胸を熱くさせるのです。
クライマックスで大写しになるキャプテンの盾を見たときは「いや~ヒーロー映画ってホンットにいいもんですね~」と感嘆しました。
そして本作のもう一人の主人公と言ってもいいジョン・ウォーカーの存在!
演じるのはカート・ラッセルの息子でワイアット・ラッセル。
2代目キャプテンに就任し、彼なりに一生懸命頑張っているのに既存のアベンジャーズメンバーからはお前なんか認めないと、ことごとく冷たくあしらわれる様が涙をさそいます。つか既存メンバー酷過ぎじゃね!?
いくら頑張っても認めてもらえない。成果が出ない。その焦りから段々情緒不安定になっていき、最後はもうほとんどヴィランなのですが、それでも最後に見せた彼のヒーローとしての矜持!震えましたね。
早く彼らの活躍の続きが見たい!本当に「後10年は戦える!!」と今後の展開を期待させてくれる作品でした(その後割とすぐにシリーズの雲行きが怪しくなりましたが…)
しかしようやく2025年2月14日に彼らがスクリーンにかえって来ます!もうだいぶ放置しているシリーズ作品が貯まりましたが、この映画に備えるなら全6話の本作だけ見とけばたぶん大丈夫でしょう!?
特報のトレーラー見ると映ってないけどちゃんとカート・ラッセルの息子でますよね!?
とにかく彼らが見せてくれるであろう「すばらしい新世界」に備えてもう一度見ておきたいドラマシリーズです。
スティーブの盾が“シンボル”だと言っていたけど、徐々にそれが“シンバル”にしか見えなくなってくる
サノスの指パッチンから5年が経過し、デシメーションされた人々が戻ってきた。やがてそれが原因で多くの難民を生みだし、5年前に戻そうという意見が台頭することになった。そうした「世界はひとつ、人はひとつ」という合言葉を使い、テロ組織が暗躍する。国連傘下(?)のGRC(世界再定住評議会)が国境を線引きしようとしていたことに対抗するものだ。GRCは言ってみれば、溢れている難民を追い返そうとする愚策を推進しようとしている巨大組織であり、多分、アメリカ政府直轄なんだと想像できる。
スティーブ・ロジャースは引退し、ファルコンことサム・ウィルソンに盾を託された。しかし、サムはその盾を政府に寄贈。新たなヒーローを求める国民の声にしたがって、3つの叙勲を受けていたジョン・ウォーカーという兵士が新キャプテン・アメリカとして君臨することになった。そんな折、指揮権の問題、スコヴィア協定の影響で、ファルコンもバッキーも新キャプテンのもとでテロリスト集団と戦うこととなるのだった。
しかし、その“フラッグ・スラッシャーズ”というテロ組織は、難民に薬品や物資を供給していて、血は流すものの訴えてる内容はまともなものであるため、SNS等を通じ世界中の人々から支持されていた。特に指パッチンで被害を受けた人々から・・・
全6話のうち、1話、2話とも激しい空中戦の映像で魅了させてくれるのですが、3~5話はかなり会話や地上アクション中心。しかし、コロナ禍で作られたこともあってか、難民問題、人種問題、貧困問題などを痛烈に批判し、世の中が分断されていることを皮肉っているような展開となった。特に大きいのが黒人差別の点だろうか、直接的なものは少ないけど、ファルコンが黒人ということもあり、アメリカ人の意識の奥深さも垣間見えてくるのです。ヒーローは白人じゃなきゃならない?!なんとなく途中で脚本も変更されている気もします。
また、スラッシャーズのリーダーであるカーリを初めとして、8人の血清を打たれたスーパーソルジャーの存在。スティーブやバッキーと同じように超人的な能力を持っている。しかも、残っている血清をも集め、さらに組織を強大にしようと画策。だけど、1個だけ新キャプテンが使っちゃう・・・副作用もある恐ろしい薬物という点では今のコロナワクチンにも通ずる。
『シビルウォー』との繋がりがいくつも存在し、特に悪役のジモ(ダニエル・ブリュール)と元CIA捜査官のシャロン(エミリー・バンキャンプ)が美味しいところ。スティーブと恋仲になりそうでならなかったシャロンだけど、ロス長官から盾とウィングを奪い、彼らに返還するなどしたため、国賊として追われ、逃亡生活をしているとのこと。スラッシャーズと敵対しているパワーブローカーとの関係も面白い。
なんやかんやで、第6話のファルコンのスピーチに感動してしまうほど、ちょっとダレ気味だった流れを一気に回復してくれた。小ネタも多くて、日本人のヨリ・ナカジマの伏線や隠された超人イザイヤといったキャラにバッキーの人物リスト、さらにそれぞれのカウンセラーのやり取りにも贖罪や悪夢といったテーマがあった。多すぎるかも。そして、最後にはタイトルが変化することや今後のMCUで活躍しそうなキャラの誕生も・・・お腹一杯。
「予想通り」面白かった ※『ワンダヴィジョン』のネタバレもあり
『ワンダヴィジョン』と違ってこちらは前情報が色々あって、未だ根強くはびこる黒人差別と白人の仲間の無理解に苦しむファルコンの話とか、「キャプテン・アメリカ」という重責を背負ったジョン・ウォーカーの話とか、ウィンターソルジャー時代の過去の罪に縛られてるバッキーとか、どんな内容かだけは聞いてたので、こちらは想像通り。
そう考えると『ワンダヴィジョン』は何であんなに情報が少なかったのか…高評価だったようだけど、どんな内容かは全く見掛けた記憶がない。
ともかく、『ワンダヴィジョン』があまりにも良かったので、こちらも期待してました。予想通り、そして評判通り、とても良かったです。でも欲を言えば予想を超えてきてほしかったというのが本音。『ワンダヴィジョン』が予想を遥かに超えて素晴らしかったので、理想が高くなりすぎたかな。
正直言って、映画も含めたMCU作品の中で、このオリジナルドラマ2作品が最も良くできていた部類のような気が。映画シリーズの中では『キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー』が映像作品として最も良かったと思っているが、ドラマ2作品はこれと同じくらいの出来だったと思う。
『ウィンターソルジャー』は、アメリカの政治的なことや歴史も含めてかなりシリアスな内容をたくさん含みながらも、それらを知らない外国人でも楽しめるよう、エンターテインメント性も決して手を抜かずに作られていたが、本作『ファルコン~』も同じ方向性で作られているよう。現実にある根深い問題に目を向けさせるための物語で、しかもコロナによるアジア人差別・貧困・アメリカ国民の断裂と、『ウィンターソルジャー』より更に、今この時を生きる誰もが身近に感じている問題と合った内容で、本国では特に視聴者の心を掴んだのでは。
本作はコロナ流行前に書かれたもので、コロナを意識して書いた物語ではないと言っていたが、そもそもコロナ前は皆が目を向けなかったから無いことにされていただけで、問題はずっと前からあったはず。コロナが原因で突然国民の意識が変わったのではなく、元々くすぶっていた不満がコロナを機に噴出しただけで、これは元々アメリカに、世界中にくすぶっていた火種だといえる。
それを掘り起こし、エンタメに仕立て上げるのはなかなか難しいが、本作はアクション映画としてのエンターテインメント性も問題提起も両立し、かつ『ウィンターソルジャー』の時のように「わからない人はわからないままエンターテイメントとして楽しめば良い」ではなく、「今まで関心がなかった人にも考えてもらえるように」作られている。かなり身近な問題がテーマなので、「わからない人はわからないままで良い」とはしなかったのだろうが、その分ラストが少し説教臭くはなっている。
また、黒人差別のことがメインに据えられていてあまり触れられていないが、レジスタンスのリーダー・カーリとファルコン&バッキーが初めてぶつかった時、カーリに負けたバッキーをファルコンが「女にやられたか」とからかうシーンがあって、アメリカはそういう差別的表現には厳しいんじゃなかったっけ?と驚いた。
意味もなくこんな直接的に侮辱表現使うか?と疑問に思って吹き替え聴いたら、「あんな小娘にやられたのか?」だった。英語字幕では"Little girl"となっていたので、「女に」というより「あんな子供に負けたの?」という感じ。血清打ってるからあまり関係ない気もするけど、まぁ超人同士だしな。
「小娘」の方が伝わる意味合いとしてはまだマシな気がするが(実際カーリのことを「まだ子供だぞ」と言う場面がある)、日本語字幕の翻訳した人は何考えてるんだろうなあ。
奇しくもサムの声は女性陣の心には響かなかったようで、今一歩で分かり合えそうだったカーリとも分かり合えないまま死んでしまうし、シャロンには「国に帰れるよう取り計らう」と声を掛け、「善意は信じない」と跳ね除けられてしまう。結局取引と称して約束を取り付けたが、これが仇となりシャロンは取引で得た恩赦を利用し、国の中枢へ入り込めるようになった。
シャロンは『シビル・ウォー』で善意からスティーブの盾とサムの翼を盗み出したが、その結果待っていたのは、犯罪者として何年も逃げ隠れる生活。いずれスティーブとサムが汚名を晴らしてくれるはずと信じて耐えていた気持ちが、幾年も経つうちに諦めと失望に変わっていったのは想像に難くない。そんなシャロンに対し「悪かった、協力してくれたら国に帰れるようにする」は言葉が足りないだろうと思ったが、案の定シャロンは心を開いたわけでも、味方に戻ったわけでもなさそうだ。
『ワンダヴィジョン』でもそうだったが、メインキャラに突然女性が増えたと思ったら、悪役か何か問題を抱えてる人が結構多い。原作があるからヒーロー側は勝手に増やせないけど…ということなのか?以前『キャプテン・マーベル』製作前にトップから散々反対されたとの話の通り、女性ヒーローだの同性愛表現だのは極力出したくないと未だにトップが駄々を捏ねているのか?わからないが、女性のヒーローに関しては、DCの方が一枚上手と感じる女性もいるようだ。こうしてよくよく見てみると、何となくわかる気もする。
また、『ワンダヴィジョン』との繋がりも、意図的なのかどうかわからないが面白い。
『ワンダヴィジョン』のレビューにも書いた通り、ヴィジョンの「テセウスの船=部品をどんどん新しい物に変えていき、全てのパーツが新しい物になった時、その船は元の船と同じと言えるのか?」との問いかけがあったが、その後の本作では、サムが自分の家族所有の船を必死に修理している。それこそ、パーツを剥がしてどんどん新しい物に変え、塗装もし直して、それでも「俺達の船」と呼ぶ。
そして、『ワンダヴィジョン』でワンダのせいで街から出られなくなり、何年もワンダに支配されていた住人と、サムに忘れ去られたせいで命からがら逃げ延びた末、何年も自国に帰れずにいたシャロン。どちらもヒーローに命を握られ、何年も支配されていると同等の状態にあった。そして、その支配を逃れた後も、ヒーローのことを許していない様子で終わる。
ただ、ワンダは許されていないことを理解し、受け止める覚悟で去っていくが、サムは許されていないことを理解していない。そのうえシャロンはスパイとして国に潜り込む算段のよう。
どちらも本編でメインだった問題は解決し、ひと段落ついたように装ってはいるものの、今後ほんの少しでもバランスが崩れれば、また大問題に発展するような火種がゴロゴロと転がっているように見える。
『ファルコン~』は特に、今後のMCU作品に確実に繋がっていくと既に明言されているので、『ワンダヴィジョン』より尚更色々な問題を抱えていそうだが、もっと言えるのは、わざわざ『ワンダヴィジョン』ではなく本作を今後に繋げるということは、今後の作品はより一層、身近な社会問題にフォーカスした現実的なストーリーになっていくのかもしれない。
ともかく本作は、かなり現実の問題を深くまで取り込んだストーリーなので、重たく感じる人、説教臭く感じる人も中にはいるだろうが、作品としてかなり良くできていて、前評判通り映画と遜色ないクオリティに仕上がっていると感じた。
マーベル作品のファンなら、アメリカに詳しくなくとも見てガッカリすることはないと思う。
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