ブレイキング・バッド シーズン1 : 特集
地味でマジメな中年の高校化学教師ウォルターが、ガンで余命僅かと宣告され、生活の苦しい家族のために奮闘する――と、ここまではありがちなストーリー。だが、彼が生活費を稼ぐために選んだ手段が違法の<ドラッグ精製>だった!という設定が、かなりフツーじゃない。
しかも、回を追うごとに主人公の暴走はエスカレート! 第1話ではドラッグ売買のトラブルが殺人に発展、第3話では監禁者の首を絞め、第7話ではスキンヘッドになってドラッグディーラーのアジトに殴り込む――と、狂気への加速ぶりもハンパじゃない。
同時に、ウォルターが正真正銘の善人であることが描かれているのが、このドラマのユニークなところだ。ウォルターが闇稼業にのめり込む過程で、彼がどのような過去を持ち、どれだけ誠意に溢れ、心から家族と生徒を愛する人物なのかということが明らかになっていく。いい人だけどドラッグ製造者で殺人者。この主人公の設定は、かなりヘン!
キャストたちも個性派揃いだ。まず、主人公ウォルター役のブライアン・クランストンは、TV「マルコム in the Middle」(00~06)の主人公の父親ハル役でも有名。実生活では父ジョー、兄カイルも俳優という俳優一家で、99年に自ら脚本も手掛けた「ラスト・チャンス(原題)」で映画監督デビューしている。TVドラマの監督も手掛け、「ブレイキング・バッド」もシーズン2第1話、シーズン3第1話を監督しているというクリエイター志向の持ち主。
また、主人公の元教え子で、ドラッグ稼業の相棒になるジェシー役のアーロン・ポールは、モルモン教の一夫多妻性家族を描いて波紋を呼んだ異色TVシリーズ「ビッグ・ラブ」(07~10)にも出演していた。
ちなみに、主人公の息子ウォルター・ホワイト・Jr.は脳性麻痺だが、この役を演じるR・J・ミッテは実際に軽度の脳性麻痺による障害をかかえている。俳優志望の妹と一緒に演技の訓練を受け、数々のオーディションを経て今回の役を手に入れた。
本作のクリエイター、ビンス・ギリガンはTVシリーズ「X-ファイル」の脚本を手がけている。身体を自在に変貌させる能力を持つ男が、その能力をセックスにしか使わないシーズン4の「スモール・ポテト」、モルダーとサエない中年捜査官の身体が入れ替わるシーズン6の「ドリームランド」、どうしても人間の脳みそが食べたくて我慢できない青年を描くシーズン7の「ハングリー」などが彼の作品だ。また、オタク3人組を主人公にしたスピンオフ「ローン・ガンメン」は、ギリガンが企画&製作総指揮を担当した。彼の持ち味であるオフビートなギャグ感覚を発揮したのが、この「ブレイキング・バッド」だろう。
ちなみに、本作の主人公とその相棒を演じる2人も「X-ファイル」経験者。主演のクランクソンはギリガン脚本のシーズン6「迷走」、ポールはギリガン脚本ではないがシーズン9「蝿の王」に出演している。
こんな奇妙な作品ながら、エミー賞を始め数々の賞を受賞! エミー賞では08年度に主演男優賞を受賞、監督賞と撮影賞にノミネート。09年度は2度目の主演男優賞と編集賞を受賞、作品賞、撮影賞、そして助演男優賞にノミネート。サテライト賞では08年度と09年度に主演男優賞を連続受賞。全米脚本家協会賞では、09年にビンス・ギリガンがTV部門脚本賞を受賞。他にも受賞歴は数え切れない。