「1番好きな映画は?」の答えが20年以上「タイタニック」な理由

2023年2月21日 19:00


「タイタニック ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター」
「タイタニック ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター」

現在、「タイタニック ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター」が2週間限定で上映中(2月23日まで)。全国の劇場で満席続出の大ヒットを記録しています。そんないまこそ、「タイタニック」の魅力をより堪能できるポイントを深堀りしてみましょう!

※本記事は、note「映画.com Style」2021年5月7日掲載のコラムを再編集したものです。

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【筆者紹介】
クチナシ(映画.com編集部員)。映画と海外ドラマ漬けの日々を送っている。多感な時期に見た「タイタニック」で恋愛を学んでしまった絶望的なロマンティスト兼リアリスト。頭に咲くお花を適度に摘みながらなんとか現実の世界にとどまっている。

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目次
■大勢から支持を得る王道=ベタは、なんだかんだやっぱりいい
■時代に感謝――デジタル過渡期だからこそかなった実写とCGの超豪華ハイブリッド映像
■心を揺さぶるのは、結論ではなく深い共感
■人生のステージによって印象が変わるストーリーと演出の魅力
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映画.comを読んで下さっている映画好きのみなさん、「1番好きな映画は?」と聞かれたときに、「これ!」と即答できる作品はありますか?

私は必ず、「『タイタニック』です!」と答えます。

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【「タイタニック」(1997)】
 1912年4月10日、イギリスの豪華客船タイタニック号がニューヨークに向けて処女航海に出発する。出港直前に乗船券を手にした画家志望の青年ジャック(レオナルド・ディカプリオ)は、新天地アメリカを夢見てタイタニック号に乗船。船内で出会った名家の令嬢ローズ(ケイト・ウィンスレット)と恋に落ちるが、出発から4日目の深夜、タイタニック号の船首が巨大な氷河に激突してしまう。ジェームズ・キャメロン監督が、当時史上最大規模の製作費2億ドル(約260億円)を投じて豪華客船タイタニック号沈没の悲劇を描き、公開時点での全米興行収入歴代1位、米アカデミー賞で作品賞をはじめ史上最多タイの11部門受賞という偉業を成し遂げた超大作。製作費が予定よりもかさんだことや製作の遅れから、世紀の大失敗と言われたが、結果は世紀の大成功となった。

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■大勢から支持を得る王道=ベタは、なんだかんだやっぱりいい

会話の糸口やアイスブレイクとしてカジュアルに使われるこの質問、映画に携わる仕事をする身としては、答えるのに少し緊張します。そして「『タイタニック』です」と伝えると、返ってくる反応は大体「……え?」です。

もちろん、歴史に残る大ヒット&大名作「タイタニック」が悪いのではありません。“映画好きな(そして仕事にもしちゃっている)人の1番好きな映画が「タイタニック」”ということに、少々(ときにはすごく)「ベタなやつきたな……」とがっかりされてしまうのです。

だから本当はこんな気持ちです。

「(誰も知らないようなコアッコアなジャンル作品とか興行的には成功していないけれど隠れたインディーズの名作だよ、みたいな作品を求められている……!がしかしやっぱり……)『タイタニック』です」

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映画に携わる仕事をする前に、ある配給会社の映画プロデューサーとお話する機会がありました。私は「1番好きな映画は何ですか?」と聞き、もれなく、「映画のプロからはコアッコアなジャンル作品かインディーズの名作が返ってくるのかな、私の知らない作品だったら試合終了だな」と気負って答えを待ちました。彼は少し考えて、「『魔法にかけられて』かな」。メジャーど真ん中、ディズニーのラブコメでした。変なプライドや見栄のない真っ直ぐな瞳で、「キュンとしてさあ、横の席のぜんぜん知らない女の子のこと好きかもって思っちゃった(笑)。上手くできてたなあ」と話す彼に、なんだかすごく憧れたのを覚えています。

本当のことを言えば、「1番好きな映画は?」に真剣に答えようとすると、「一旦ジャンルごとに1番を選んでもでもいい?」みたいなことになってしまうと思います。「タイタニック」じゃないやないかと怒られそうなのですが、私はとにかく“みんなが知っている王道映画”って最高だよ!王道になるには理由がある!ということを声高らかに叫びたい。

ここでは、20年以上にわたり“みんなが知っている王道映画”の代表であり、私の“公式1番好きな映画”でもある「タイタニック」の物語の魅力はもちろん、映画技術的な意味での価値の高さも思う存分に語らせていただきたいと思います。

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■時代に感謝――デジタル過渡期だからこそかなった実写とCGの超豪華ハイブリッド映像

タイタニック」が製作された1990年代は、ちょうど映画におけるデジタル技術の過渡期。当時、タイタニック号をフルCGですべて再現するのは技術的に不可能だったこと、デジタル処理にはいまよりお金がかかったこと、そしてジェームズ・キャメロン監督のリアルさへのこだわりから、当時の最先端CG技術と大がかりな実写セットのハイブリット撮影が実現しました。

製作のジョン・ランドーが、「もしかしたら、今作は古き良きハリウッドの映画作りができる最後のチャンスかもしれないと思った」と話すように、「タイタニック」は(お金はめちゃくちゃにかかったけれど)すべての技術的な進歩のタイミングが絶妙だったからこそこの形での製作がかなった、超贅沢な作品といえるのです。

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キャメロン監督は、「ターミネーター2」(1991)の成功でデジタル処理技術やCG合成の価値に注目し、VFXの制作会社デジタル・ドメインを設立(98年にオーナーを辞任)していました。デジタル・ドメインは、キャメロン監督がメガホンをとった「トゥルーライズ」、ロン・ハワード監督の「アポロ13」などを経て、「タイタニック」でその真価を世に知らしめることになります。

そして実写セットも大好きなキャメロン監督は、実際のタイタニック号の設計図を基に、ほぼ原寸大で右舷側だけのタイタニック号レプリカを、セットとして制作しました。外側の甲板の高さや幅、デザインだけではなく、救命ボートやカーペット、装飾品、グラスなどの食器に至る内装までをも正確に再現するため、当時の染料を復元したという事実には圧倒されます。

実は、船の全長だけは予算のために本物の269メートルよりも少し短くなっていて、船首を別で制作したほか、3カ所を6メートルずつ短縮して違和感がないように繋げています。そのため、船の全体を見せるようなカットは撮れなかったとキャメロン監督がのちに明かしています。

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さらに、キャメロン監督はこの巨大なレプリカを浮かべて沈没させるためだけのドックと巨大スタジオをメキシコ・バハ半島のロサリオに建設しました。ロサリオの風向きを考慮し、船はドックに右舷をつける位置で作るしかなかったのですが、出港シーンでは史実通り左舷側がドックについた映像にするため、建物や衣装などの文字をすべて鏡文字にして撮影し、のちに映像を反転させるという非常に手のかかる方法がとられました。俳優の立ち位置や衣装の構造もこのシーンのみ逆になっていなければならなかったため、ケイト・ウィンスレットの髪の分け目まで逆にして撮影が行われました。想像しただけでも眩暈がします。

ここまでの実写セットにすでに巨額が投じられているわけですが、このレプリカには船を動かすエンジンが搭載されていないので、航海シーンと、そこで登場する船上の人物は、さらに費用をかけてすべてデジタル合成しなければなりませんでした。船上の人物は、当時の最先端技術だったモーション・キャプチャーで別撮りされた人々です。仕方がないとはいえ、大変贅沢な製作手法でした。CG技術が発達したいまであればなおさら、こんな撮影はもう出来ないでしょう。まさに時代の産物なのです。

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■心を揺さぶるのは、結論ではなく深い共感

キャメロン監督は、タイタニック号沈没という史実をラブストーリーとして描いたら最高の映画になると思い、今作を企画しました。映画の概要を20世紀フォックス映画(現・20世紀スタジオ)の重役たちに売り込んだ際には、文章はまったく書かずに、画家ケン・マーシャルによる沈みゆくタイタニック号の絵を持参したといいます。打ち上げられた救難信号弾が暗い海に輝いている、美しくも悲劇的なその絵を見せ、「この船にロミオとジュリエットを乗せる」とだけ言い、そのひと言で製作が決定したそうです。

タイタニック号が沈没したことは事実であり、製作中には、結末が分かりきった映画だという批判もありました。それでもキャメロン監督は、「その事実にこそ物語の強さがある」と語っています。重要なのは、この船が沈むかどうかという結末ではなく、沈没する船の乗客にどこまで共感できるかだと。

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それを裏付けるように、今作は開始10分で、タイタニック号が辿る運命をすべて“タイタニック号の探査隊が制作したアニメのシミュレーション”という形で観客に提示してしまいます。これによって、現実味のない船が沈んだという結論よりも、実際に何が起きたかを知りたくなり、さらに、ローズという誰も知らない架空のキャラクターの結末を知りたくなるという演出です。みなさんと同じように、私もこの導入でグッと引き込まれました。

その後に繰り広げられるケイト・ウィンスレットレオナルド・ディカプリオのケミストリーは言わずもがな。キャメロン監督はキャスティング過程でウィンスレットと台本の読み合わせをしたディカプリオを5分間見て「彼しかいない」と思ったといい、ウィンスレットは、キャメロン監督に「私はともかく、彼は絶対に雇うべき」と進言しています。このエピソードが大好きですし、共演前から俳優として尊敬し合い、ウィンスレットが「色恋ごとが一切なかったからこそ」という、ふたりの現在に至るまでの友情も胸アツです。

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■人生のステージによって印象が変わるストーリーと演出の魅力

タイタニック」が日本で公開されたとき、私は小学校高学年でした。小学生の私にとって、「タイタニック」は初めて遭遇した悲恋であり、作品に対する感想は「なんでローズはすぐにジャックと付き合わないの?」「なんでジャックは死んじゃったの?」「なんで後でほかの人と結婚したの?」「なんでジャックが死んだ後の人生で笑顔の写真があるの?」というようなもの。恋愛のゴールは“好き同士になること”であり、「心から愛する人は生涯でひとりだけなんだから、ローズはジャックだけを思って独身を貫かなきゃ(涙)!」という気持ちでいっぱいでした。最後のステアケースでの夢のようなシーンも、「ローズはほかの人と結婚して子どもも孫もいるけれど、やっぱりジャックのことが1番好きで一生忘れられなかったんだ」と解釈して涙が止まりませんでした。

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しかし、高校~大学生の頃には少し解釈が変わりました。自分自身の成長と、知識や視野が広がったことで、1912年に生きる17歳のローズと19歳のジャックにとって、貧富や身分の差がどれほど厚く高い壁となっていたか、さらにはローズが家庭の事情を無視できない気持ちも理解できるようになりました。それでも、たった4日間で燃えるような恋をしたふたりに添い遂げて欲しかったし、「やっぱりローズはジャックのことが1番好きで忘れられないよね」と、またもやステアケースのシーンで号泣しました。

それからときは流れ、2本セットのVHSからDVD、ブルーレイと、仕様が変わるたびにソフトを購入して、年に1度は「タイタニック」を見返し、必ずステアケースのシーンで嗚咽していた私に変化が起こりました。忘れもしない、27歳の秋。私は初めて「タイタニック」をノー涙で鑑賞しました。

ジャックを失ったローズがまた笑えるようになり、愛する人と出会い、結婚して家庭を築いたことを嬉しく思いました。刹那的で情熱的なジャックとの恋愛が、ローズの人生観を変えたからこそいまの幸せなローズがいるんだと思うと、例えジャックが生きて隣にいなくても、ローズの大きな一部となって存在していると感じたからです。初めて、ジャックが「ローズにとって1番好きで忘れられない人」ではなく、「ローズにとって切ないけれど美しくて、ありがたい思い出の人」になりました。それは、“愛はなくならないけれど、形が変わることはある”という、ちょうど27歳の私が経験していることでした。

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小学生の頃はなぜ必要なのか理解できなかった、タイタニック号沈没事故後のローズの人生を写した写真たち。キャメロン監督がどんな意図を持って演出したのかはかわかりませんが、27歳の私には、ローズがジャックと出会ったことで得た人生を豊かに生き、慈しみ、感謝し、ジャックを愛しい“恩人”としてそっと思い出しているように思えました。

それから数年、私は最近「タイタニック」を見ていません。もしかしたら、またラストのステアケースのシーンで号泣するターンが来ているかもしれないと思うと、ドキドキします。これから新たな人生のステージに立ったときには必ず見返したい、大切な作品です。私の心がどう変化(願わくば成長)していて、船上のふたりにどんな感情を抱くのか、いまから楽しみにしたいと思います。

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