“サメと遊ぶ”伝説のダイバーが語る「ジョーズ」の海洋撮影「素晴らしいサメのアクションがあった」

2021年7月29日 09:00


「サメと遊ぶ伝説のダイバー」(Disney+:7月30日配信)
「サメと遊ぶ伝説のダイバー」(Disney+:7月30日配信)

サンダンス国際映画祭(2021年)の公式セレクション作品に選出された「サメと遊ぶ伝説のダイバー」(原題:Playing With Sharks)は、海洋撮影の先駆者、サメの研究家として知られ、85歳になった今でもダイバーとしても活躍しているバレリー・テイラーに迫ったドキュメンタリー映画だ。日本では、ディズニーの動画配信サービス「Disney+」で7月30日から配信がスタート。テイラー本人に加え、監督のサリー・エイトケン、プロデューサーのベッティーナ・ダルトンらに、作品への思い、映画「ジョーズ」の撮影裏について聞いた。(取材・文/細木信宏 Nobuhiro Hosoki)

テイラーは、「ジョーズ」「オルカ」「ブルーラグーン」などの海洋撮影に協力した伝説のダイバーだ。脊髄小児麻痺を患っていた子ども時代、健康を取り戻してからスピアフィッシング(素潜りで銛や水中銃を用いて魚類を捕らえる水中スポーツ)のチャンピオンとなった頃、夫ロンとの出会いなどを活写。海洋撮影に魅せられたテイラーの人生を、サメや海洋生物の保護活動とともにとらえている。

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プロデューサーのダルトンは数年前、動物行動学者で人類学者のジェーン・グドールを題材としたドキュメンタリー「ジェーン・グドールの軌跡」の鑑賞がきっかけとなり、「サメと遊ぶ伝説のダイバー」を手掛けることになったそうだ。

ダルトン「ジェーン・グドールの映画に衝撃を受けて、バレリーの映画を作らなければいけないと思いました。バレリー自身は『私の映画を作るのに、何でそんなに時間がかかったの?』とジョークを言っていましたね。彼女の映画を作る――今がちょうど良い時期だと思いました。なぜなら、私たちは新型コロナウイルスによる困難に直面してきました。こんな時だからこそ、人々は自然との関係を見直すべきだとも感じたんです」

テイラーは、12歳の時、ポリオ(脊髄性小児麻痺=5歳以下での発症が多いが、それ以上の年齢や大人でも患うことがある)になり、家族と隔離されることになった。その時の心境について、彼女はこう語っている。

テイラー「症状は酷く、母親に会いたくて苦痛でした。私は、同様の苦痛を抱えた子どもたちと、大きな部屋に隔離させられていたんです。当時はあらゆる人々がポリオを患って死んでいきました。私は、歩けるようになるまで退院することができませんでしたし、それにはかなりの時間を要しました」

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テイラー「政府は、若年層のポリオ患者をニュージーランドの農場に送りつけていました。そこで我々は(健康的な肉体に)鍛え上げられました。ポリオのような病気にかかると、かなりの体重を落とすことになり、とても細くなるんです。ただ、決して悪いことばかりではなく、良いこともありました。ブレスレンという宗教グループの団体から、たくさんの本が送られてきたことがありました。それらは、宗教関係の本や聖書ではなく、冒険小説。それを何度も読み返すことで、病院を出た時に『いつか(この本のように)冒険する』と思っていたんです。そのことは今でも覚えていて、結果的にそれを実行することになりました」

健康を取り戻したテイラーは、スピアフィッシングのチャンピオンにまで昇りつめた。しかし、同競技を突如辞め、カメラを持って海洋撮影に熱中していく。「私の夫と一緒に、オーストラリアでチャンピオンのタイトルを再び獲得した時のことです。捕まえた魚の計量をしていた時、突然、夫のロンが『もうスピアフィッシングは2度とやらない』と言ってきました。私もまた『もうこれ以上、やりたくない』と返答していました。私たちは動物を保護したいと考えるようになったんです。海洋生物の個性的で異なった性格を知ったことで、スピアフィッシングから離れることができました」と語るテイラー。突然の転向は、スピアフィッシングのコミュニティからの批判を受けることになったそうだ。

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劇中では、こんなエピソードが描かれる。テイラー夫婦の友人ロドニー・フォックスが、サメに噛まれ、全身を約400針縫う大怪我を負う。そんな事件があったにもかかわらず、彼らは、なぜダイビングをやめず、サメの撮影を続けているのだろうか。

テイラー「(事件があった時)ロンと私は、既にサメに精通していました。サメは人間の捕食には興味がないということ、他の動物と同様に非常に好奇心が強いという側面を知っていました。サメは“手で感じる”ことができないので、“歯で感覚を得る”んです。ロドニーがサメに噛まれたのは、スピアフィッシングの最中のこと。海面には魚の血が流れ、死にゆく魚の鼓動、窒素代謝にサメが反応したんです。ロドニーに噛みつき、それが魚と異なっていることがわかると、彼の体から離れて魚を食べ始めました。ロドニーが幸運だったのは、サメに噛まれた時、すぐ横に監視艇がいたこと。だから、助かったんです。その事件以降、ロドニーは、サメに精通している我々と一緒に仕事をすることになります。それ以降、彼がサメに襲われたことは一度もありません」

テイラー夫婦は、網目状のダイビングスーツを着用し、わざとサメに腕を噛ませるという実験も行っている。甘噛みをし始めたサメは、歯に伝わった感覚によって、それが食べ物ではないことを判断。すると、それまで噛んでいた箇所を離すのだという。

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話題は、スティーブン・スピルバーグ監督作「ジョーズ」へと転じた。当時、ユニバーサル・ピクチャーズは、ピーター・ベンチリーの原作小説をテイラーに送ったうえで、オファーをかけていた。

テイラー「プロデューサーのリチャード・D・ザナックデビッド・ブラウンが、原作小説を送ってきて『良い映画になるだろうか?』と聞いてきたんです。夫とともに小説を読みましたが、映画化するうえでは、かなりの量の仕事が必要になると感じました。だからこそ、我々は『はい、もちろん(参加する)』と返答したんです。製作陣はとてもスマートで、スティーブン・スピルバーグは、(機械仕掛けのサメ以外の)リアルなサメの映像を、プロダクションに入る前に撮影しようとしていました。なぜなら、その映像が映画を作るうえで、重要になってくることを認識していたんです。偽物(機械仕掛けのサメ)でも見栄えはするけれど、それだけでは完成作品を良くすることはできないと思っていました」

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テイラー「私たちの仕事は、ある意味、パイの上にのっているクリームのようなものでした。興味深かったですし、撮影を楽しみました。海洋撮影では、サメを避ける檻、ボートなどを、通常の半分のサイズで撮影していました。ロンがサメのライブ映像を撮影していた時のことです。ボート横にあった檻の上部に、サメが突如飛び込んできました。サメは檻の上で回転しながら逃げようとしたので、その勢いで檻は壊れ、海底へと沈んでいってしまいました。ロンは、その光景を撮影していたんですが……そんなシーンは、当然脚本にはなかったんです。だから、そのシーンを脚本に書き加えることになりました。とても素晴らしいサメのアクションだったんです。カットすることはできなかったみたいですね」

充実の日々を過ごした一方で、テイラーは「この映画が、一般の人々にあれほどの影響を与えるとは思っていなかった」と振り返る。「ジョーズ」が公開されると、アメリカの海岸地域では大量のサメが捕獲され、殺されるという事態が生じた。「私たちは非常に驚き、苦しみもしました」(テイラー)。やがてテイラー夫婦は、その出来事を知ったユニバーサル・ピクチャーズからの“ある依頼”を受けることになった。

テイラー「ユニバーサル・ピクチャーズは、私たち夫婦に全米を回らせ、トーク番組に出演させました。そこで語ったのは『ビーチに行くことを恐れないように』という趣旨のものでした。『ジョーズ』は架空の物語であり、登場するのは偽のサメ。劇中に登場するようなサメは存在しない。あれほど大きくなく、凶暴ではないと。この活動は成功をおさめ、のちに登場する多くのサメを扱った映画へとつながっていきました」

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テイラー「皆さんがご存知のように、多くのサメが、中華料理のふかひれスープのために、加速的に屠殺(とさつ)されています。この屠殺が続けば、サメを絶滅させてしまうだけでなく、食物連鎖の乱れによって、私たちも絶滅してしまう可能性があるんです。自然というものは、陸、海、それぞれに生命があってこそ、完璧に機能するもの。私たち人間は、それを変えようとしているんです」

そして、エイトケン監督は「サメに対して勝手な認識で結論を下すのではなく、バレリーが海で体験したことを鑑賞してみてほしいです。サメに対する人々の認識が、この映画から変わっていくことを願っています」と思いの丈を述べてくれた。

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