東映70周年企画、嵐のライブフィルム、るろ剣の反響は? 上海国際映画祭“中の人”が振り返る

2021年7月23日 15:00


第24回上海国際映画祭
第24回上海国際映画祭

中国国内で唯一の国際映画製作者連盟 (FIAPF) 公認長編映画祭「第24回上海国際映画祭」が、6月11~20日に開催。コラム「どうなってるの? 中国映画市場」の執筆者・徐昊辰(じょ・こうしん)氏は、第23回に続き、同映画祭で“日本映画の作品選定”を担当している。ラインナップされた日本映画の反響はどうだったのだろうか。改めて、映画祭を振り返ってもらった。

第23回は「6月開催を予定していたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で4月上旬に延期発表」「6月中旬には、7月下旬~8月上旬の開催を予定。だが、北京の“新型コロナ第二波”を受け、動きがストップ」「7月20日映画館再開。7月25日からのスピード開催を実現」と二転三転する状況下での開催だった。しかし、今年はコロナを巡る状況が落ち着いたことで、予定通りのスケジュールで進行。無事“完走”することになった。

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作品の応募状況は、113の国と地域から合計4443本。ラインナップされたのは405本となり、計1423回の上映が行われている。そのうちワールドプレミアが73本、インターナショナルプレミアが42本、アジアプレミアが89本、中国プレミアが99本。日本映画は、全部門で70本が出品されている。観客の総動員数は、32万2077人となった。

東映創立70周年を記念した「SIFF SPECIALS:TOEI 70TH RETROSPECTIVE」では、各年代の代表作8本をセレクト。そのうち「」(今井正監督)、「宮本武蔵(1961)」(内田吐夢監督)、「鬼龍院花子の生涯」(五社英雄監督)に関しては、同特集がきっかけとなり4Kデジタルリマスター版が制作された(上海でDCP化)。

徐氏「高倉健さんが出演した『新幹線大爆破』(佐藤純彌監督)と『鉄道員(ぽっぽや)』(降旗康男監督)、『天国の駅』(出目昌伸監督)のチケットは完売です。『鬼龍院花子の生涯』は7割ほどの売れ行きだったのですが、そもそも劇場のキャパシティが大きすぎました。客席フロアは5階分。総席数は5000ですからね(笑)。五社監督の存在は、海賊版を通じて、中国の映画ファンに広く知られています。今回は映画祭ですので、いわゆる“一般の方々”も見に来ましたが、軒並み高評価でした。五社作品は、物語のアップダウンに加え、演技も激しい。この点が中国人にウケるのかもしれません」

巨匠たちにフォーカスする部門「TRIBUTE TO MASTERS」では、篠田正浩監督が取り上げられることに。元々日本人監督を特集する予定はなかったそうだが、映画祭上層部からの「やはり日本人監督も入れたい」という要望を受け、徐氏が篠田監督特集を提案。理由は2つあった。ひとつは、篠田監督が90歳という節目を迎えたこと。もうひとつは、日中文化交流協会の代表理事を務めていたということだった。すぐに了承の返事を得ることになったが「作品のライセンス、上映素材の確保が想像以上に難しかった」という。

徐氏「ほとんどの作品でDCPが作られていなかったんです。『HDファイルはあるけど、DCPがない』というパターンもありましたし『プリントしかない』という場合も。しかも、そのプリント自体があまり良い状態のものではなかった。そこで上海で知り合っていた鯉渕優プロデューサー(『梟の城』『スパイ・ゾルゲ』)に協力を求めたんです。そこからスムーズに物事が動き始め、篠田監督本人にも話が届くことになりました」

この経験を通じて、徐氏は日本映画業界の課題に気づいたようだ。

徐氏「黒澤明、小津安二郎溝口健二の作品は、世界中の映画祭で上映されているのでDCPがありますよね。しかし、彼らの作品ばかりでいいんでしょうか? 映画祭が求めていたのは“発掘”です。その思いに対して、上映素材がないというのはマズイ気がしています。黒澤、小津、溝口以外の作品を“発掘”したいと考えているアジアの国は多いと思う。もう少し力を入れれば、きちんと展開できるはず。実は上映料も、例外を除けば旧作の方が高い(新作の約3倍)。でも映画祭側は払うんです。『上映する価値がある』と考えていますから。今回の特集では6本を上映したのですが『心中天網島』『はなれ瞽女おりん』は満席。『写楽』もほぼ満席。特集を行ったこと自体に意味があるんです。今後も“発掘”を続けていくでしょう」

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徐氏が「最もやりがいのある仕事だった」と語るのが、「戦場のメリークリスマス」(大島渚監督)の4K修復版を上海の地に招いたこと。日本国内では、今年4月に同バージョンのリバイバル公開が行われている。

徐氏「『戦場のメリークリスマス』は中国でも人気が高く、過去には2K版の上映を行っています。4K修復版の上映について、まずはライセンスを保有しているハンガリーの会社に問い合わせをしました。しかし、4K修復のこと自体を知らなかったんです。そこで樋口尚文さんを通じて、大島新さん(大島監督の次男)に連絡をとりました。そこで知ったのは4K修復版は“日本国内に限ったもの”だったということ。ですから、ハンガリーの会社はそもそも関与していない。そこから4K修復版の配給を担当したアンプラグドに連絡し、IMAGICAを交えて、上海国際映画祭用のDCPを作成することになりました。このように大勢の方々の協力を得て、実現した企画だったんです」

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目玉作品となったのは、人気アイドルグループ「嵐」の20周年記念ツアーを体感できる初のライブフィルム「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM "Record of Memories”」。上海国際映画祭史上初となるGala部門&Dolby Vision部門の“両部門同時出品”となった作品だ。事の発端は、約1年前以上前にさかのぼる。海外セールスを担当するGAGAから、徐氏に連絡が入った。

徐氏「当時『Dolby Vision部門に出品できそうな作品がある』と教えてもらったんです。まずは、オンラインミーティングをしたのですが、そこでは作品名を教えてもらえませんでした。やがて第16回大阪アジアン映画祭が閉幕した頃、試写に呼ばれたんです。しかも、私ひとりのために試写室をあけてくれました。ちなみに、その場に着くまでは、やはり作品名は教えてもらえませんでしたね(笑)」

作品の概要を知ったうえで「ライブフィルムは、映画祭という場に相応しいのか?」という思いを抱いていた徐氏。その懸念は、鑑賞後、すぐに払拭されたようだ。

徐氏「とにかく作品が良かったんです。編集が非常に上手い。堤幸彦監督が参加していることで“映画らしさ”を伴っていました。面白かったのは、トーク部分を全てカットしていること。ノンストップで歌唱シーンが続く。“体感型”だと思いました。例えば『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』に近いイメージです。新型コロナウイルス感染拡大の影響で中国でのコンサートが中止になったため、ファンへの“恩返し”の意味を込めて、ライブフィルムのワールドプレミア上映を上海で実施する――これこそ、映画祭が意識する『文化の交流』だと思います」

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徐氏「情報解禁の際は、かなり話題になっていました。一方で『ただのライブ映像でしょ?』という声があったのも事実です。しかし、映画祭で鑑賞した方々は『それは違う! ただのライブ映像ではない!』と仰る方ばかり。口コミは高評価ばかりで『上海以外で上映してほしい』という意見も多かったですね」

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ムービーフランチャイズ部門では、「るろうに剣心 最終章 The Final」「るろうに剣心 最終章 The Beginning」を含めた「るろうに剣心」シリーズ全5作が上映された。同部門では、これまでハリウッド大作のみ上映されていたため、「るろうに剣心」シリーズが日本実写映画として初の快挙を果たすことになった。オフィシャル取材の対応だけでなく、大友啓史監督、佐藤健らのメッセージ動画が届くなど、映画祭を盛りあげるため、非常に協力的だった“るろ剣チーム”。映画祭期間中は、アクション監督の谷垣健治が徹底したファンサービスを行ったようだ。

徐氏「谷垣さんは、現地で(コロナ対策による)隔離期間中だったようです。上海では、14日間の室内隔離に加え、同市から7日間出ることができないという決まりがありました。その間、映画祭に参加されていたようですね。ドニー・イェンのマスタークラスに飛び入りで登壇されていました。『るろうに剣心』のファンとは写真を撮ったり、サインをしたり……現地の人に聞いたところ、ほぼ全員に対応してくれたみたいですよ」

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一方、徐氏は映画祭の問題点にも言及する。「梅切らぬバカ」(和島香太郎監督)、「スパゲティコード・ラブ」(丸山健志監督)がノミネートされていたアジア新人映画部門が“政府の方針”で急遽廃止に。同2作は、GALA部門への正式出品という形で上映されることになった。この決定については「作品、そして配給の方々には、非常に申し訳ない気持ちになった」という。

徐氏「中国では、検閲の基準やルールがいまだに明確ではありません。この点をどうしていくべきか――これは課題ではあるのですが、(対応には)限界というものもあります。映画祭自体も“新しいものを取り入れる”という方向にシフトしているのですが、やはり世論を意識してしまう。映画祭と政府が意図していなくても、市民が曲解してしまうパターンがあるんです。判断は“国民の声”に従うべきなのか、それとも気にしないべきなのか。非常に難しい部分です。今回、さまざまなトラブルを解決するために、作品選定の3倍の時間を要することになりました」

さらに、カンヌ国際映画祭(第74回)にも多大な影響を受けたようだ。同映画祭は、昨年コロナ禍で中止に。今年は通常の5月から7月に時期をずらし、開催されることになった(現地時間:7月6日~17日)。

徐氏「多くの作品がカンヌへの参加を模索した結果、上海国際映画祭への出品を見送るということになってしまったんです。これは映画祭としてのブランド力が、まだ乏しいということですよね。今後検討しているのは、ワールドプレミア、インターナショナルプレミアを重視しないということ。そうすることで、より多くの良作が集まる可能性がある。日本の映画界とも、同じアジアの一員として、互いに協力していければと思っています」

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