「日常生活にはドラマが満ちている」想田和弘監督、観察映画の新作「港町」で新境地

2018年4月6日 12:15


想田和弘監督
想田和弘監督

[映画.com ニュース] 想田和弘監督の新作で、第68回ベルリン国際映画祭フォーラム部門で上映された「港町」が4月7日に公開される。台本作りをせずにカメラを回し、ナレーションやBGMなどを排したドキュメンタリー「観察映画」の第7弾。前作「牡蠣工場」の撮影で、想田監督が岡山県牛窓滞在中に出会った人々、穏やかな海と小さな町の文化を美しいモノクロームで映し出す。「日常生活にはドラマが満ちている」と言う想田監督に話を聞いた。

――同じドキュメンタリーでも、過去作とは全く別の味わいがある作品になりました。ベテラン漁師のワイちゃん、ちょっとおせっかいながらも明るくパワフルなクミさんら町の高齢者も魅力的です。

「偶然の出会いが重なってこの作品ができました。ワイちゃんやクミさんに出会ったのも道端です。状況を映画のためにコントロールしようという、自分自身のエゴを全くほとんど出さずに作れた作品で、作り手としては気持ちのいい体験でした。実は、普段は何かを描こうと、大きな岩をぐっと動かすような感覚で映画を作っているのですが、この『港町』は本当に、自分で作ったというよりも頂いたような映画という感覚です」

――8作目になります。製作上のテクニックや心境の変化はありますか。

「回を重ねるごとに力みが取れてきた感覚があって、『港町』は今までで一番が力が抜けた作品ではないかと。僕は、どちらかというと目的意識の強い人間で、ゴールを設定して達成する、というような嫌な性分なんです(笑)。だからいつもオープンであろう、リラックスして考えすぎないようにと思って『観察映画の十戒』を作りましたが、やはり未熟な人間なので難しいのです。このシーンをどういう風に使おうかとか、あれとあれを撮らなきゃとか、そういう考えが頭をよぎってしまいます。そこで努力して、起きたことをよく観察して、受け入れながら撮る、それだけなんだと自分に言い聞かせるんですけれど、なかなかできなくて。でも、この『港町』はなぜかそれが苦も無くできたんです。もしかしたら『牡蠣工場』のおまけ的に撮っていたからかもしれませんが。努力せずに作れてしまった感じもあります。そういう境地は目指してきたことなので、その点については幸せです」

――映画の奇跡とも言えるような偶然に満ちた美しい作品になりました。

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「僕は、日常生活はドラマが満ちているものだと思っています。生きることは偶然のつながりなので、それを祝福したいという気持ちもあります。自然の成り行きを無視して、いつも何かを無理やり設計・構築しようとしたり、いつもここにある何かではなくて、別のところにあるゴールばかりを見て、今の瞬間をおろそかにしてしまうことって不幸だし、生きにくいのではないかな。という風に思うのです。毎日毎日、その瞬間瞬間に気付いて、その面白さ、美しさに覚醒すると、より楽しく人生を生きられるのではないかと。そういうことを映画で実証したいのです」

――モノクロにした理由を教えてください。

「ずっと色付きで編集していて、モノクロにしたのは最後の最後での決断でした。僕は色にものすごくこだわりがあって、カラーコレクションも自分でやるんです。今回、特に夕暮れ時の色にこだわって、タイトルもはじめは『港町暮色』だった。でもそのタイトルがちょっと不評で、僕自身もなんかしっくりこないなと思っていたんです。そういう話を(製作の)柏木としていたときに、彼女が思いつきで『モノクロにしてみたら』と言ったんです。何てこと言うんだ(笑)と思いましたが、行き詰ってもいましたし、ボタンひとつで変換できるので、ダメもとでモノクロにしてみたら、すごく面白くて最後まで見てしまった。これだなと思ったのと同時に、タイトルの『暮色』を取ったんです。それでこの映画が完成したと思っています。カラコレは一からやり直しですけどね。」

――さまざまな要因が重なり、今作は特別な作品になったようですね。

「普通はモノクロにしないですよね。ドキュメンタリーは報道、ジャーナリズムではないと僕自身言い続けてきたのに、色という重要な情報をカットすることにどこか抵抗があったんです。でもやってみると、編集と同じだなと。加工をどこまでやるかは作品によって変わってくると思いますが、この映画にはこれがベストでした。今回、撮影を含めて自分としては、突き抜けたというか、ひとつ殻を破れた感じがします。でも、こういう作品をもう一回やれと言われたらできないかもしれない。何かを狙ってしまったら生まれなかった作品だと思います」

港町」は、4月7日からシアター・イメージフォーラムで公開。

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