祝オスカー!「ブレードランナー 2049」に携わった日本人に話を聞いてみた

2018年3月6日 16:00


デッカードのブラスターを開発した 中子真治氏にインタビュー!
デッカードのブラスターを開発した 中子真治氏にインタビュー!

[映画.com ニュース] リドリー・スコット監督の名作SFノワール「ブレードランナー」(82)の35年ぶりの続編として、大きな話題を呼んだ「ブレードランナー 2049」(17)が、第90回アカデミー賞で撮影賞と視覚効果賞を受賞。本作で、ハリソン・フォード演じる前作の主人公にして、続編のキーパーソン、リック・デッカードがもつ未来銃“ブラスター”には、ある日本人の情熱が詰まっている。レプリカからモデルガンへと進化し、ついに映画に採用された「留之助ブラスター」の開発者・中子真治氏に1月末、インタビューを敢行した。

1980年代、特殊効果(SFX)が花盛りだったハリウッドでジャーナリストとして活動した中子氏は、日本に「SFX」という言葉を広めた人物だ。「ブレードランナー」のデッカードのブラスターにほれ込んだ中子氏と、モデルガン原型師の徳信尊氏が2007年に出会い、留之助ブラスター(以下、留ブラ)の制作がスタート。1作目の映画で使用されたブラスターは、既製のリボルバー銃やライフルの銃身といった様々なパーツに、手製のカバーやグリップを組み合わせた1点もの。それを忠実に再現すべく改良を重ね、留ブラは15年、「ブレードランナー 2049」に採用された。

「ライアン・ゴズリングとハリソン・フォードリドリー・スコットドゥニ・ビルヌーブ監督がカウンターを囲んでいた写真を見ただけで、もうわかるんだよ。あ、おれのブラスターだって。予告編でも最初から出てくる。めちゃくちゃ嬉しかったよね」

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ところが、映画の公開直前に事態が急転。小道具を扱うプロップマスターのダグ・ハーロッカー氏が、米メディアで「自分のチームが本物のブラスターをもとに、レプリカを制作した」と語ったのだ。この記事の読者から「本当に留ブラは映画で使われたのか?」と疑問の声が上がり、中子氏は自身のブログで図解し、疑惑を論破。「ただの空想ではないと証明するために、論理立てて語ったら、それがいろんな人の目に留まった。みんなが擁護したり、理解を示したりしてくれました」。

事の真相はこうだ。日本のセールスパートナーから留ブラを買い付けたハリウッドのプロップハウスが、ウェザリング(風化加工)してハーロッカー氏にもとの10倍近い価格で転売、その事実を口外しないようにという契約を結んでいた。詳細は、中子氏が監修した書籍「ブレードランナー究極読本」に記されている。「プロパティマスターが、動画の中でシリンダーを開けて中を見せたりしていますが、映画の撮影で使うのに、そこまでリアルなプロップガンなんてありません。つくろうと思ったら2~3カ月ではできない」。それほど精巧な構造なのだ。

留ブラの魅力のひとつがずっしりとした重量感。重量は約1.2キロ。「オリジナルのブラスターよりも50グラム軽いだけ」だという。警察の家宅捜索を受けるなどのトラブルもあったが、法の許すかぎり、ギリギリまで本物に近づけようとこだわった。

初めて留ブラを持った人たちは、その重さに驚く。「だから、ハリソン・フォードが持つのを嫌がるっていうのもよくわかる」。映画の撮影では、スタントシーンの撮影用や破損したときのための予備など、用途別に複数のプロップが制作される。フォードは遠景のショットなどでは、軽量のプロップを使用していたようだ。ちなみに見分け方は、「インジケーターの赤いLEDのランプが付いているのが留ブラ、それ以外は型取りしたスタントプロップ」だそうだ。

「ブレードランナー 2049」に 採用されたリテイラーエディション
「ブレードランナー 2049」に 採用されたリテイラーエディション

ブレードランナー 2049」で使用されたのは、「留之助ブラスターPROリテイラーエディション」。このモデルに到達するまでに数々の苦労があった。特に、モデルガンとして工業製品化する際、組み立てなどを考慮し、パーツ間のクリアランス(隙間)が必要になるのが難点だった。「クリアランスをとると形がかわっていく。そのせめぎあいが大変だった」。いろいろと目をつぶって完成したのが「留之助ブラスターPRO ヒーローモデル」。そこからバージョンアップを検討しているとき、アメリカのディーラーから300丁の注文が入った。

「その利益を全部つぎ込んで、直せるところを全部直したのがリテイラーエディション。それでもまだ直したいところがいくつかあって……。でも、直す前に『ブレードランナー2049』で使われてしまった」

映画の公開と同時期に発売された「留之助ブラスター2049」は、初めて小売り販売もされた。定価8万円の商品に1000丁以上の注文が入った。「ホビー業界ではお祭り騒ぎ。夢のような大事件だったらしいです」。なぜこれほどの熱狂を呼んだのか。「はじめから売れると思ってつくっていない。自分の満足のためにつくっていた。情熱でものづくりをしているのが、たまたま誰かに通じたのかな」とほほを緩ませる。

「モデルガンの世界では、ひとつの商品が、しかも高額なものが、1000も2000も売れるなんてことはない。だけど今回は、モデルガンマニアも、映画ファンも欲しがった。いろんな層の人たちにマッチした。それに、本物に近づけようと一生懸命頑張っているのが、いろんなところで本物を目指して努力している人たちの意識と、どこかでつながったのかなとも思う。とにかく、いろんな意味で魅力があるんだろうね」

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発展途上にあったリテイラーエディションは、映画に採用されたことで、“2049版”として本物になった。3月には、満を持して公式ライセンス版が発売される。当初は日本市場のみのライセンス料で5万5000ドルと提示されていたのが、その精巧さゆえ、同額で全世界でのライセンスを獲得。さらに、盗用騒動で注目度が高まりアメリカの販売代理店がライセンス料や保険料の負担を申し出た。情熱がさらなる成功を引き寄せたといえるだろう。

しかし、完璧さの追求は続く。目指すは、2049版と2019版の両立だ。「見本があるわけだから、とにかく近づいていきたい。弾は撃てないけれど(笑)、それ以外の部分でどこまで近づけられるかがテーマだし、そのテーマはまだ終わっていない。それが、1作目の舞台になった2019年に完結するって、いいじゃないですか」。最近、メイクアップアーティストのマイク・スミスソンが、本物のブラスターを型取ってスタントプロップを制作したことを知り、実物を譲り受けると目を輝かせる中子氏、念願の“2019年版”を今年末にお披露目できればと、準備に余念がないようだ。

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