実写「ママレード・ボーイ」少女漫画原作の“マンネリ”への挑戦 製作陣が仕掛ける意外な戦略
2018年2月20日 12:00
[映画.com ニュース] 吉住渉氏による人気少女漫画を映画化する「ママレード・ボーイ」(4月27日公開)が、少女漫画原作の映像化の“マンネリ”に挑戦している。プロデューサーの松橋真三氏と北島直明氏が茨城・つくば市の撮影現場で取材に応じ、今作の根底に流れる“意外性”を軸とする戦略を語った。
1992~95年に「りぼん」で連載された同名漫画を、「ストロボ・エッジ」「オオカミ少女と黒王子」などで知られる廣木隆一監督のメガホンで映画化。ダブル主演には“岡山の奇跡”と称される桜井日奈子と、「銀魂」など人気急上昇中の吉沢亮を抜てきし、2組の夫婦がパートナーを交換し共同生活する様子と、光希&遊(桜井&吉沢)が織り成す恋模様を描き出す。
20年以上前の作品をいま映像化するに至ったきっかけは、松橋氏と北島氏が手がけ、吉沢も出演した「オオカミ少女と黒王子」(2016)にあった。松橋氏は「『オオカミ少女』製作の際に、少女漫画について数1000人を対象としたマーケティング調査を実施しました」と明かしたうえで、「『実写化して欲しい少女漫画は?』というアンケートで、ダントツ1位が『ママレード・ボーイ』でした」と話す。
調査から発覚した「未だ冷めやらないファンの情熱」を受け企画にGOサインが出たが、製作陣の胸には「誰も手をつけていない伝説級の漫画を、果たして映画化していいのか」と恐れもあった。自身も愛読者だったという北島氏は、「アンケートの結果が示しているとはいえ、勝算がないと映画化してはダメだと感じました」と強い思い入れを交えて振り返る。そこでたどり着いた“勝算”が、配役の意外性だった。
これから国民的スターへと成長していくであろう、桜井と吉沢の組み合わせ。ともに「ラストコップ THE MOVIE」(2017)に出演したが、本格的な共演は初となる。製作陣の脳裏に、若きコンビが化学反応を起こし、他の作品とは異なる新鮮味を付与する姿が広がった。
北島氏「『ほかでは見たことのないルック』にしたかったんです。『見たことがあるキャストの組み合わせ』と思われた瞬間、ダメになると製作陣で共通認識がありました。つまり観客に『またこの俳優か』と思わせないことが、この映画の良さ、フレッシュさに繋がると考え、たどり着いたのが桜井さんと吉沢くんでした。松橋さんとは『オオカミ少女と黒王子』『斉木楠雄のΨ難』もやらせてもらっていて、そこでも吉沢くんが光っていた。吉沢くん本人が言っていましたが、あの素晴らしい顔面を持っているのに、それを全力で使ったことが一度もないそうです。だとしたら、この作品で全力を使ってもらおうと。これはもう、吉沢くんにかけるしかないだろうと」
語られる「ほかでは見たことのない」「フレッシュさ」という言葉。少女漫画の映像化は、製作サイドにとってローリスク・ミドルリターンが見込める堅実な商品であり、なおかつメインを張る若手キャストにとっても、貴重な活躍の場となるなどメリットづくめだ。製作陣は目を皿のようにして原作を探し続けているわけだが、それが量産されるようになった近年、どうしてもトーンが似通ってしまい、観客が「また少女漫画の映像化、またこのキャスト」と食傷気味になっていることも事実だ。「ママレード・ボーイ」は、そうした状況そのものに挑戦していると解釈することができる。
意外性をはらんだ要素は、もうひとつある。中山美穂&檀れい&谷原章介&筒井道隆が扮する、両親を交えた恋物語という点だ。
松橋氏「若いカップルだけの話ではなく、親も交えて面白い話がある点が原作の特徴です。少女漫画が多く実写化されているなかで、ここが格別に違うところで、今となっては逆に新しい要素なんですよね。私の妻が原作連載当時に愛読していたそうで、映画化に際してもう一度読んでもらったら、『こういう話だったんだ、とわかる部分がある』と言っていました。中高生当時は主人公たちの三角関係に夢中になっていて、遊の秘密や親との関わりの深さに気づかなかった。当時のファンも、新しい発見を楽しめると思う、とも。物語に親を意識的に入れていくことで、ティーンがドキドキできる三角関係も、人の親になって初めてわかる重厚な大人のドラマも描く。新しい形の少女漫画原作の映画になれたと考えています」
2時間尺の映画ではカットされがちな両親をないがしろにせず、むしろ中軸に据える。従来のターゲットである若年層はもちろん、かつて原作を愛読していた大人たちも存分に楽しめる、懐の深い物語が書き上がった。
松橋氏と北島氏は、原作ものを手がける際のモットーとして「作品の魂を大事にすること」を掲げている。印象的な場面を抜き出したダイジェストではなく、物語を分解し、一貫して存在する魂やメッセージをとらえ、それを核に筋書きを構成していく。計算と熱意が融合した製作姿勢には、原作・吉住氏も好感を寄せているようで、台本のチェックや現場を見学した際に「私は細かいところまで計算せずに、ドラマを中心に描いていた。こんなにしっかり作ってもらえているんだったら……」と感嘆の声を漏らしたそうだ。原作を宝物のように愛するファンに、今作はどのように響くのだろうか。