「負け犬」に反旗。大人の恋を描いた「いつか読書する日」
2005年6月28日 12:00
00年「独立少年合唱団」で、日本人として初めてベルリン国際映画祭新人監督賞を受賞した緒方明監督が、最新作「いつか読書する日」を語った。
本作は、少女時代の恋を忘れられず、50歳になっても独身のままの美奈子と、彼女への愛を隠しながら病床の妻を看病する槐多が主人公。情感あふれる長崎の町を舞台に、大人の淡い恋を描くドラマだ。「長崎という地方の村社会で、自分の“思い”だけを抱えて生きる女性が、何を生きる気持ちの糧にしているかを描きたかった」という監督はまた、「“負け犬”という言葉に反旗を翻したかった」とも語る。
「ある“思い”を胸に秘めて何十年も生きるということを、ネガティブにしたくなかったんです。現代は恋愛も自由ですが“自由”がかえって“不自由”を生んでいないか。例えば携帯電話は持たないと仕事にならないから、そこには選択肢がないのです。ファッションにしろ、食べ物にしろ、選択肢は多いようで、実は選ぶことはできないのが現代です。美奈子は槐多への“思い”を持ち続けて生きていますが、“思い”は生きることにおいて非常に重要なことであり、これを肯定したかったのです」
そんな主人公・美奈子を演じるのは、ベテランの田中裕子だ。彼女について監督は次のように語った。「以前、あるお芝居を観にいったとき、隣に田中さんがいたのですが、女優のオーラがなかった。これは実はすごいことで、演じる時に“田中裕子”を消せるということなんです。いつか一緒に仕事をしたいと思い、今回その願いがかないました。撮影中の現場では、ほとんど会話することなくコンマ1秒のタイミングも理解して演じてくれました。天性の才能の持ち主ですね」
本作は7月2日より、渋谷・ユーロスペースほかにて公開される。