劇場公開日 2022年11月18日

「大胆で野心的でありながら、最も個人的で内省的な領域を炙り出した異色作」バルド、偽りの記録と一握りの真実 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5大胆で野心的でありながら、最も個人的で内省的な領域を炙り出した異色作

2022年11月21日
PCから投稿

とても評価の難しい作品だ。強靭な物語性で引き込むイニャリトゥのこれまでの作風に比べると、本作は点描的でもあるし、とっつきにくい。我々は砂漠で伸び縮みする影をずっと追いかけるかのように、光と影に満ちたマジックリアリズムをかき分け、かと思えば時に圧倒的な言葉の応酬に翻弄され、この映画が我々をどこへ誘おうとしているのか理解できぬまま、2時間半に身を委ねる。「バルド」とは一つの死から次なる生に至るまでの中間領域をいうらしい。なるほど、これは仕事、家族、人生、年齢、祖国の歴史、アイデンティティ、国と国の狭間できりもみする主人公の内面世界を赤裸々に吐露した、答えなき旅路だ。観る側の反応はきっと千差万別。私は幾度となく困惑したし、逆に吸い込まれそうなほどの繊細な感情、それを彩る映画的魔術に目が眩みもした。だからこそ嫌いになれないし、イニャリトゥという稀代の映画作家を見つめる上で欠かせぬ一作なのは確かだ。

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牛津厚信