劇場公開日 2022年10月14日

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「マリ自身が放つエネルギーが、科学と女性と人類の歴史を変えた」キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0マリ自身が放つエネルギーが、科学と女性と人類の歴史を変えた

2022年10月31日
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鑑賞方法:試写会

悲しい

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従来の伝記映画の枠に収まらない、創造性に富んだ意欲作だ。原題の「Radioactive」は、米国人女性アーティストのローレン・レドニスによる原作グラフィックノベルのタイトル(邦訳の題は「放射能 キュリー夫妻の愛と業績の予期せぬ影響」)と同じ。第一義的にはマリ・キュリーが命名した、ある種の元素から生じる放射現象を指す言葉だ。ただし、シンプルなこの題には、女性の社会的地位が低かった時代のフランスの学界で、ユダヤ系ポーランド人という出自により差別も受けながら、さまざまな壁をぶち破って自身の研究と夫への愛を貫き、科学界と社会、そして世界の歴史に影響を及ぼしていったマリの強烈な資質への比喩も込められていると思う。

プロデューサー陣と脚本家は英国のチームだが、監督にイラン出身・フランス在住の女性監督マルジャン・サトラピを起用したのも英断だった。彼女は映像作品を手がける前は漫画家としてキャリアを築き、自伝的漫画を自ら共同監督を務めてアニメ映画化した「ペルセポリス」が高評価された。サトラピの参加により、男性社会で抑圧される女性の視点、被差別者の視点が強調されただけでなく、マルチクリエイターらしい独創的な表現(米国での核爆弾の実験、広島への原爆投下、チェルノブイリ原発事故といったマリの時代よりも未来の出来事を幻想的に挿入する演出など)によって、ありきたりな伝記映画に収まらないユニークな意欲作となった。

ロザムンド・パイクには芯の強い女性の役がよく似合う。娘役のアニヤ・テイラー=ジョイは出番が少なかったが、演技派2人のアンサンブルで終盤の母と娘のエピソードを大いに盛り上げている。

高森 郁哉