劇場公開日 2022年10月14日

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「過疎化・少子高齢化・介護・結婚難のカルテットは日本社会の縮図か?!  寂れた町を舞台に本当の"地方創生"を問う社会派人情映画」向田理髪店 O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0過疎化・少子高齢化・介護・結婚難のカルテットは日本社会の縮図か?!  寂れた町を舞台に本当の"地方創生"を問う社会派人情映画

2022年10月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 高橋克実さん主演というなんともいぶし銀なキャスティングにまず惹かれつつ、寂れゆく地方問題をテーマにして変化に否定的な住民側を主体に如何にネガティブに偏り過ぎずされど理想論に終始しないエンタメ作に仕上げられているか、俄然興味が湧いて劇場に足を運んだ次第です。
 田舎の閉塞感と出歯亀根性が嫌になって上京した身としては主人公の息子世代の心情に近いハズなのですが、彼らのその時々の熱情に正直なもののその実非常に移り気で一貫性の無い様がどうしても目についてしまう老壮世代の心情もよくよく共感されるところであり、その相克がそのまま地方創生を巡る問題の難しさを表しているという本作のスタンスがなんともしっくり来て感心しました。
 鑑賞後に周縁情報を調べてまずオヤッと思ったのが、原作と舞台となる地方町が違う点。原作では北海道ですが映画では福岡県に置き換えられており、それに伴って作中の地方ロケ映画も『赤い雪』→『赤い海』に変更されています。同じ元炭鉱町といえど北から南に変更されているということで真逆な印象を受けますが、それでもきちんと成立しているあたり地方の過疎の町の問題が普遍的なものであることをあらためて実感させられますし、実際、地理的には全く異なる関西の山間部の町の出身である私にも十二分に身近なテーマとして受け入れられました。
 とどのつまり、田舎での生活とは"冒険しない"という冒険をし続ける生活だと思います。何か他人と違ったデカいことをやろうものなら白い目で見られて瞬く間に引き摺り下ろされ、その地域の流儀に均されてしまう。
 作中では、新しいチャレンジをするのを後押ししてくれる、つまりはそれまでの失敗を水に流して先入観無しに協力してくれる場が"都会"であり、そのチャレンジがしんどくなった人のためのドロップアウトの場所として"田舎"があり、実際現在の社会でもほぼほぼそのような棲み分けが為されていると思います。
 そのチャレンジを行うのに制度だけでなくそこに住む人々も臆面無く後押しできる土壌が地方創生には必要だということが本作の示す一つの答えだと思えました。

O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)