劇場公開日 2021年12月31日

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「とにかくデンゼル・ワシントンが美しい」マクベス 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0とにかくデンゼル・ワシントンが美しい

2022年1月18日
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悲しい

怖い

ジョエル・コーエンがウィリアム・シェイクスピアの4大悲劇の1つ『マクベス』を映画化する。このチャレンジングな構想を後押ししたのは、まず配給のA24と配信を請け負ったApple tv、そして、夫のコーエンと共に製作に参加し、劇中でマクベス夫人を演じるフランシス・マクドーマンド、だけではない。魔女の囁きを信じて権力欲に取り込まれ、自滅していく主人公、マクベスの心理状態を代弁するような、恐いほど美しいモノクロ映像、意図的に無機質な背景(全てがサウンドステージ)、マクベスの不安をさらに助長するような音楽、それだけでもない。最大の功労者は、悲劇の王の苦闘を口跡のいい台詞回しで、呟くように、奏でるように、泣き叫ぶように演じるデンゼル・ワシントンの俳優としての技量なしに、コーエン夫妻の挑戦は日の目を見なかったのではないか、という気さえする。何しろ、今回のデンゼルは美しいのだ。

これは、オスカー受賞の演技派俳優→アクション俳優(もしくはその両輪)とキャリアを転じてきたデンゼル・ワシントンが王道の演技派路線に回帰して、もしかして再び頂点を極めるかもしれない渾身の作品。奇しくも、今年のアカデミー賞は彼が『ドレイニング・デイ』(01)でアカデミー主演男優賞に輝いた年に状況が似ている。あの時と同じく、ライバルには後輩のウィル・スミス(『アリ』→『ドリームプラン』)がいて、彼が『ずっと追いかけてきたのにまた追い越された」とスピーチしたシドニー・ポワチエ(名誉賞受賞)はこの世にはなく、ある意味、また1歩先を越されてしまったのだから。どういう形式で開催されるかは不透明だが、そんな風に今年のオスカーナイトのワンシーンを想像させる、必見の人間ドラマであり演技である。

清藤秀人