「そうだったのか、ブルーノート」ヴィム・ヴェンダース プロデュース ブルーノート・ストーリー Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5そうだったのか、ブルーノート

2022年3月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ジャズ好きには、よく知られている内容なのだろう。
しかし60年代半ばまでのアルバムを時々聴く程度の自分は、ブルーノートの歴史をよく知らないので、大喜びで観に行ったのだが、期待をはるかに上回る素晴らしい出来映えだった。
冒頭、「アイ・リメンバー・クリフォード」が流れた時点で、すでに感動。そのシックな雰囲気に、きっと良い作品に違いないと確信した。

エンドロールを見ると、ドイツ人っぽい名前が多いので、ドイツの映画なのだろう。
登場する人物は、公式HPの「Featuring」にある7~8人だけでなく、ヴァン・ゲルダーやR.カーターも出てくるし、T.モンクにも触れられる。(M.デイビスやコルトレーンは顔出し程度。)

ポイントは4つあると思う。
創業者の(a)アルフレッドと(b)フランシスの、人生および仕事のやり方。クールな(c)アルバム・ジャケット。そして、素晴らしい(d)録音・サウンド。これら全てが語られる。

この作品を見る限り、ブルーノートのサウンドはアルフレッドの独特の審美眼が根底にあるらしい。
ジャズ・クラブを渡り歩き、気に入った演奏家を連れてくる。リハーサルにも金を払い、完成度の高い音楽を作り上げる。
妻のL.ゴードンとの別れのエピソードも、“らしさ全開”なのだろう。

ブルーノートのジャケットと言えば、モダニズム・デザインと、色フィルターのかかった素晴らしい写真が思い浮かぶ。
デザイナーのR.マイルスは無名だったそうだが、彼の抜擢にも“アメリカ的”ではない感性がうかがえる。
写真はなんと、フランシスが撮ったもの。写真家として生計を立てていたのだった。寡黙で秘密主義者のフランシスの“人となり”や、撮影の様子が詳しく語られる。

驚くべきことではないのかもしれないが、レコーディングは夜に行われたらしい。
夜になれば疲れてくるかと思いきや、普段から深夜までクラブで演奏しているジャズ・ミュージシャンには真逆のようだ。演奏が進み、ミュージシャンが一番“ノってきた”ところで録音されれば、素晴らしい出来になる。
ヴァン・ゲルダーの録音のやり方も、少し触れられる。

本作を観て一番強い印象を受けるのが、“ナチから逃れてきたドイツのユダヤ系移民”ということで、人種差別を受けている黒人ミュージシャンたちから多大な共感とリスペクトを得ていたことだ。
2人がアメリカ白人では、こうはいかなかっただろう。

「角川シネマ有楽町」は、このところ音楽映画をよくやっているが、なかなか良い音響である。
前半は、インタビューされているミュージシャンのヒット曲がいくつか流される。
後半になって、気分が高揚した中で鳴った「モーニン」には、完全に痺れてしまった。アート・ブレイキーの暴露話が出てくるが、本当なの?!(笑)。
ただし、音楽は“ぶつ切り”ですぐに終わってしまうので、鑑賞までは期待しない方が良いと思う。

2時間があっという間に過ぎた。
再現アニメーションが頻繁に挿しはさまれるので、とても分かりやすい。
音楽史として見れば物足りないだろうが、このレーベルの本質にズバリ切り込んでいるのではないか。
自分にとっては、ブルーノート“全盛期”の最高の入門編だった。1週間限定上映では、もったいない。

Imperator