劇場公開日 2021年7月30日

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「高齢者向けの精神的介護映画」パンケーキを毒見する サブレさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0高齢者向けの精神的介護映画

2021年9月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

時の総理大臣、菅義偉の素顔に迫る政治ドキュメンタリー映画。この手の映画だと、2019年に日本アカデミー賞を受賞した「新聞記者」が思い出されるが、新聞記者のようなファンタジー作品ではなく、想像していたよりもずっと現実的な作品だった。

総理の半生振り返りや関係者インタビュー、国会映像は政治スタンスを抜きにして価値あるものと断言できる。個人的な関心を言うが、2000年代の菅総理がちょっと太めだったのは意外で、今のやせこけた姿からは想像もできなかった。関係者インタビューでは、特に江田議員のコメントによって菅総理の過去の人となりがわかるし、赤旗職員のポリシー(policyの文字通り)も興味深い。国会映像では総理の雑な答弁姿勢を堪能できる。
これらは政治に興味のない、あるいはネットde真実を知った人たちにとって非常に勉強になるものだと言っていいだろう。価値があると述べたのは、事実をベースに描かれた部分は普段のニュース番組では見ることのできないからということだ。

しかし本題の菅総理批判はどうだろうか。やれ政治家はうそつきだとか権力に酔っているとか圧力をかけてきたとか、批判のスジや感性が2000年代から全く変わらない。もしかしたらもっと前から。20年も前からずっと疑惑、憶測、決めつけの三段論法を使用しているのかと思うと辟易する。
また、そのスタンスに同調した高齢男性が劇場でずっと声をあげて笑っていて大変つらかった。ドキュメンタリーとはいえ、映画くらい静かに観られないのか。翔んで埼玉じゃないんだから。
アニメシーンも悪趣味ポップな風刺漫画をイメージしたのだろうが、とにかく「私たちは政治家(=スガとアベ)に不信感を覚えています」というお気持ちしか伝わってこなかった。というのは、基本的にアニメシーンとドキュメンタリー本編には関連がなく、アニメシーンで唐突に悪口をかますような作りだったからだ。風刺は文脈を共有していなければただの悪態にしかならない。前振りがあればまだよかったのだが。

つまるところ、菅総理に不信を覚えている高齢者たちに「あなたたちは間違っていませんよ。スガとはこんなに悪いやつなのです」と慰めのメッセージを送る介護作品なのだ。要所要所で差し込まれる扇情的な女性の読書シーン、極道の妻による博打シーン、甘えるような「ヨシヒトサン」、これらもすべて高齢男性向けのサービスシーンだ。(でなければ監督の趣味)
最後に。政府はコロナ対策を失敗し続けている…と批判したそばから赤旗デスクが通気性の良いメッシュマスクをつけて出演したところで失笑してしまった。詰めが甘すぎる。

サブレ