「『ドラゴンボール』の「余地」を活かした快作」ドラゴンボール超(スーパー) スーパーヒーロー 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0『ドラゴンボール』の「余地」を活かした快作

2024年4月23日
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『ドラゴンボール』は「Z」時代の劇場版も含めあらかた鑑賞しているが、どの作品においてもやっていることは基本的に変わらない。戦闘力の単純な倍々ゲームだ。インフレを厭わないこの思い切りの良さこそが『ドラゴンボール』シリーズ最大の魅力だといえるだろう。

ただ、戦闘力という物理面での成長しか描かれていなかったとすれば、本シリーズはここまで普遍的なコンテンツになり得ていなかったのではないかと思う。単なる暴力の応酬に物語的な意味合いにおいての苦味(深みと言ってみてもいいかもしれない)は生まれない。物理科学実験の結果として「勝ち/負け」が決するだけだ。

暴力の応酬が最終的には不毛であることについて『ドラゴンボール』シリーズはきわめて自覚的だ。『ドラゴンボール超』におけるビルスや全王の存在はそのことを如実に示している。孫悟空やベジータがどれだけ修行を積もうが、越えられない壁の向こうに彼らがいる。地球をめぐるZ戦士たちの命懸けの攻防も、言ってしまえば全王の指先一つでどうにでもできてしまうのだ。

彼らのようなデウス・エクス・マキナ的存在は、暴力の最終地点をあらかじめ設定してしまうことによって、『ドラゴンボール』の妙味が暴力の応酬(とその先に期待され続ける「最強」への到達)以外のところにもあるということを逆説的に証し立てているといえる。

思えば原作『ドラゴンボール』はそこかしこに余地のある作品だった。そもそもがギャグ漫画として始まったのだから当たり前といえば当たり前だ。神龍にパンツをねだるとか、クリリンに鼻がないおかげで悪臭を振り撒く敵を撃破できたとか、そういうくだらないシーンが多々あった。少年編以降はバトルが全面化していったが、それでもこうした描写はちょくちょく差し挟まれていた。

物理的指標の競り合い(=バトル)のさなかにこうした余地を確保したことによって、『ドラゴンボール』は戦闘力至上主義的な志向性を多少なりグラつかせることに成功したわけだ。それゆえ「最強」ではない(あるいは「最強』になれないことが確定している)キャラクター、すなわちサブキャラクターが輝ける。個人的にはこここそが現在の『ドラゴンボール』シリーズの妙味であると確信している。

本作はまさにサブキャラクターたちの大宴会だったといえる。主人公はピッコロと孫悟飯で、それ以外にもパン、神龍、ゴテンクス、クリリン、18号といった本編ではめっきり活躍の機会が減っていたキャラクターたちにフォーカスが当てられている。

ピッコロなんかは本当に余地だらけの魅力的なキャラクターだ。もともと父親であるピッコロ大魔王の意志を継いで孫悟空への復讐に燃えていたのが、紆余曲折を経て孫悟空の息子・孫悟飯の師となり、今や孫悟飯の娘・パンの幼稚園の送迎役を押し付けられているという。『ドラゴンボール』にはバトルからギャグへと態度が徐々に軟化していくキャラクターが多い。ベジータなんかもその最たる例だろう。最近はフリーザも。

ピッコロは自分が今やそこまで強くないことに自覚がある。ゆえに迫り来る脅威に対するアプローチが戦闘狂の悟空やベジータとは大きく異なっている。敵地の視察や味方の煽情といった冷静沈着な芸当は悟空やベジータには決してできないだろう。物語の主導権が悟空ではなくピッコロにあるというだけで『ドラゴンボール』はスリラーとしての色彩も帯びることができるんだな、と感心した。

ドクター・ゲロの孫、ドクター・ヘドが開発したガンマ1号・2号も非常にいいキャラクターだ。強敵ではあるんだけど、どこか抜けていて愛嬌がある。セルマックスに関しても「Z」時代の劇場版作品『超戦士撃破‼︎勝つのはオレだ』に登場するバイオブロリーを彷彿とさせる人外的おぞましさがあり、ラスボスとして申し分ない存在感を湛えていた。

孫悟飯の「超サイヤ人ビースト」覚醒のくだりに関してはやや単調だったのではないかと思う一方で、日常ではあれほど優秀な学者である孫悟飯が、バトルではプリミティブな怒りによってしか進化できないほど不器用、というギャップがあるのは面白い。

悟天・トランクスの久々のフュージョンが失敗するのもいい。ラスボス戦のシリアスさを失敗ゴテンクスのコミカルな動きがほどよく解きほぐしていた。一方でセルマックスに最初に致命傷を与えたのも彼だった。

孫悟空やベジータと比べて相対的に不完全なサブキャラクターたちがどうにか個々の特徴を活かして強敵を打破するという本作の構成は、『ドラゴンボール』シリーズの余地を持たせた作風ゆえに成立したものであるといえるだろう。

『ドラゴンボール』には死ぬほど多数のキャラクターがいるので、こういう外伝的な路線はこれからいくらても作っていけるんじゃないかと思う。

個人的には悟空が新しい力を手にして暴れまくるような本編的作品よりも周囲のサブキャラクターに焦点を絞った外伝的作品のほうが興味があるので、ぜひたくさん作ってほしい。

天津飯がメッチャ活躍する映画とか観たくないですか?俺は観たいけど…

因果