劇場公開日 2021年3月26日

「静かなる圧倒。時代の変わり目に立つ一作」ノマドランド 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0静かなる圧倒。時代の変わり目に立つ一作

2021年3月28日
PCから投稿

静かな圧倒が押し寄せ続けた。観る者の人生や価値観を揺さぶる、忘れがたい2時間だ。本作には都市部やビル群がほぼ姿を見せない。登場するのは延々と続く道。天然の石、大自然の公園、恐竜のオブジェ。その渦中で、人は誰かの生き方に合わせる義務もなければ、貨幣経済に縛られる必要もない。眼前に広がる果てしない風景は時に寂寥感に覆われることもあれば、希望を感じるほど光に満ちることもある。大切な皿はいつか割れて大地の一部と化す。その全てを抱きしめながら、自らの手で選択を重ねて、アメリカ国土を移動していく主人公。我々もまた旅路に沿って、彼女の心の内側を、まるで地層ふかく降りていくかのように自ずと受け止めることとなる。そこで芽生える、表現しようのない共振。そういえば『ミナリ』もどこか「開拓時代」を思わせる物語だった。何かが確実に変わり始めている。時代と映画との鏡面性を、これほど強く意識させられたことはかつてない。

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牛津厚信