劇場公開日 2020年3月20日

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「流刑地タスマニアに響く慟哭の歌声」ナイチンゲール 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0流刑地タスマニアに響く慟哭の歌声

2022年8月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

美しくも残酷な復讐のバイオレンス・スリラーです。
19世紀初頭。
オーストラリアのタスマニアはイギリス兵に占領されていた。
イギリス政府は先住民族アポリジニの根絶作戦が繰り広げられていた。
早い話が、アポリジニの大虐殺作戦です。
オーストリア出身の女性監督ジェニファー・ケントは、オーストラリアの
黒歴史を、ひとりのアイルランド人女囚クレアと、アポリジの青年ビリーを
主役に、ふたりのプラトニックな愛にも似た絆を、壮大に残酷に描きます。

クレアはアイルランド出身で、些細な窃盗罪でタスマニアに流刑になりました。
囚人の身ながら夫と赤児に恵まれて幸せな日々でした。
しかしイギリス人将校のホーキング(サム・クラフリン・・・よくぞ引き受けた鬼畜将校役)の性のはけぐちとして日夜・性暴力に耐えていた。
それを知った夫がホーキンスに食って掛かると、夫と赤児はいとも簡単に殺されてしまうのだった。
復讐を誓いホーキンスの山越えを追うクレアに降りかかる苦難。
飢え寒さ、そして自然の脅威と更なる身の危険。
そして行く先々で虐殺されるアポリジニの人々。
アポリジニには生まれ育ったタスマニアが、安住とは程遠い民族浄化の大虐殺の地であり、イギリス人に怯える少数の先住民族なのだ。

血が流れます。
女はいとも簡単に犯され殺されます。
勇敢に銃を持ち復讐を誓うクレア。
生き残ったクレアは勇ましさとは裏腹に無力で身も心もズタズタ。
夫と赤児の夢を見て、死者の幻影にうなされるのです。

題名のナイチンゲールは歌の上手いクレアのあだ名です。
透き通った声が哀しみをたたえて美しくも物哀しい。
アポリジニの青年ビリーの歌声や呪文は温かい響き・・・
クレアを癒してくれます。

なぜに、不毛な殺し合いが未だに全世界で終わることがなく、人間は
かくも愚かで弱のでしょう。
クレアとビリーが《血みどろの復讐の旅路の果て》に見る
あっと声を上げるほどの荘厳な光景。

タスマニアの美しい森林や自然が、この過酷で残酷な物語を慰めてくれます。

琥珀糖