劇場公開日 2018年10月6日

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「強靭で真摯なリアリズムとして」シャルロット すさび Go UMINOさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0強靭で真摯なリアリズムとして

2019年5月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

この作品は、大半がモノクロである
だが、モノクロであるということは
観る人間にとって大いに救いになる
なぜなら
断片に織り込まれたこの物語に
的確な、あるいは不確定な色彩を
各々で補完し添え、味わうことを可能ならしめるからである

これがカラーであったなら
ぼくは耐えきれない
不必要なまでの猥雑さのみが主張され
随分とチープな印象さえ誘(そび)きかねない

そうした点において
微妙な色の施し具合、兼ね合いが、
作品世界の深遠な静謐さと
荒々しく激しい破壊音を際立たせてくれている

そう、静謐と破壊の音(ね)

ここには相対立するあらゆる概念が
折り重なるように相対立したまま
ちりばめられている

闇と光、動と静、騒と寂、
生と死、遠と近、粗さと滑らかさ、
清澄と混濁、揺らぎと緊張、
混沌と直線、順光と逆光
渇きと潤い、破壊と再生
さらには、嗜虐と被虐、低俗と高潔まで

それらが
相互補完的というよりはむしろ
相互に同時並立的に
あるときは無邪気なまでの奔放さで
投げ込まれ、ぶつけられ
あるときは緻密な点描画のごとく
調和を保ち、あるいは乱し
自在に緩急し、疾走していく

その疾走に我々は混乱し、しかし
混乱を混乱のままに委ねてしまう

実に不可思議ではあるが
子細に振り返るならば
我々の日常は
ほとんど、あるいは何もかもが
何一つ解決も体系化も
真の得心も反省も欠いたまま
同時並立的に雪崩れ込んでいくものだ

我々はそれらごく一部を抽出し体験し
整理できたように、思い、語り、
辛うじて秩序らしきものを保ち得ているに過ぎない

そうした意味合いにおいて
この作品は幻想的ではあっても
シュール(超現実)では断じて、ない
むしろ、強靭なまでにリアリズムなのだ
ぼくはそう思う

作品の主人公を通して
他者の記憶を辿りながらも
時折、象徴(symbol)を嗅ぎ取り
既視感に襲われる所以は
我々の無意識や内面の深層において
平素は蓋をし凝視することを忌避してきた
先述のような混沌、混乱に満ちた
いわば幻視的なマテリアルを
マテリアルのままに
訥々とであるが
真摯に代弁しようと試みているからではないだろうか

「生まれてないのに死んでたまるか」
「与えられた運命を与え返すために」

これら劇中の箴言は
生と死を含む世界のあらゆる二項対立への
単純なアンチテーゼではなく
この世界の受容における
オルタナティブであり
止揚と解することができるのではないか

かくして
我々は生まれてもいず、
また仮に運命が与えられているにせよ
それらは、敢然と与え返さねばならないはずなのだ

Go UMINO