劇場公開日 2014年12月20日

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「自分に価値を感じるために」百円の恋 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5自分に価値を感じるために

2024年2月6日
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鑑賞方法:DVD/BD

みんな自分の「ものさし」を持っている。お金を持ってるとか、見た目が良いとか、お年寄りに優しくできるとか、箸の持ち方がキレイとか。
いろんな「ものさし」は、世界と自分をつなぐ架け橋であり、自分の価値を高めるツールでもある。

主人公・一子は、自分の価値を感じられる「ものさし」を持たない女だった。一般的な「女のものさし」はことごとく一子に低評価だ。「可愛く」ない。「若く」ない。「愛されて」ない。
かといって「働いて」ないし、当然「自立して」ないし、まさに「時価百円」くらいの自己評価なのが切ない。

そんな「ものさし」要らねーよ、とばかりに「女捨ててっから」とのたまう一子だが、とうとう「無償の愛」という「ものさし」すら失うことになる。

そんな一子が深夜勤務のアルバイトに就けたのは、当時の店長の「募金をしてくれる人は良い人」という「ものさし」だ。人生はわからない。

ボクシングに打ち込む狩野が気になったのは、はたして一子の中のどの「ものさし」だったのか。
狩野の「ものさし」はわりと明白に「誘っても断らなそう」という身も蓋もないヤツである。

遅すぎた恋に、人生は残酷だ。「若さ」と「可愛さ」で圧倒的に上回る女が現れれば簡単に愛は裏切られる。
愛した男が愛したボクシング。勝敗をかけて殴りあった相手と、互いの価値を認め合う行為。同じ「ものさし」を持つもの同士だけが、認め合える最高の瞬間。その煌めきを追いかけただけなのに。同じ「ものさし」を持ちたいと思っただけなのに。

一子の中で少しずつ「ものさし」が構成されていって、それが一子自身をも変化させる大きな力になっていく。その描写を一人で体現仕切っている安藤サクラは凄い。
誰かから自分を否定的に見られても揺るがない、むしろ前のめりにボクシングに打ち込んでいく様は「私の価値はこれだ!」という叫びにも思える。

一子以外の人物も様々な「ものさし」で劇中に登場するが、本来一番一般的でマトモな「ものさし」を持っているはずの新店長が「嫌なヤツ」に見えてしまうから不思議だ。
私も一子の熱に浮かされていたのかもしれない。

自分の価値を賭けた大勝負は、さながら女版「ロッキー」とも言える。「ロッキー」が証明したかったのはエイドリアンに相応しいかどうかだったのに対して、「百円の恋」は恋よりも彼女自身に重きを置いてるのが、タイトルと違っていて面白い。

自分の設定した「ものさし」で、自分の価値が低いのはカッコ悪いかもしれない。でも「ものさし」すら持てないのはもっとカッコ悪い。
百円が百十円になったくらいでも良いじゃない。
そこに自分への自信があれば。

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つとみ