劇場公開日 2012年1月28日

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「本作は2011年の公開 911から10年目の節目に製作されたのだ そこに意味がある 本作のテーマとメッセージがあると思う」J・エドガー あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本作は2011年の公開 911から10年目の節目に製作されたのだ そこに意味がある 本作のテーマとメッセージがあると思う

2021年8月18日
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鑑賞方法:DVD/BD

本作のテーマは一体何だったのだろうか?
本作のメッセージとは何だったのだろうか?
なぜこの人物の映画が製作されたのだろうか?
なぜ2011年に?

その疑問がぐるぐると答えを求めて頭の中でのた打ち回って、結局エンドロールを迎えてしまった

ホモセクシャルがテーマ?
陰謀史観の裏米国史がテーマ?

それはフリルだ
そんなものではない

エドガーの伝記?
それはその通りかもしれないが
それでもない

もどかしい
自分なりに思うのはこうだ

J. エドガー・フーヴァー
FBI長官を29歳から77歳まで48年間務めた男
1924年から1972年までといってもピンと来ない
しかし大正13年から昭和47年までと書くとその異常さ、恐ろしさが実感される

世界を見渡せば国王とかの事例はあろう
民間企業のオーナー社長ならいくらでも事例があろう
日本でも市長や知事が4選、5選され16年、20年も在任している例もある
そうなると、まるでその土地のお殿様にでもなったように勘違いしている人物もでてしまう

彼はその2倍、3倍もの期間を在任したのだ
しかも彼は国家元首たる大統領から単に任命されるだけの官吏にすぎないのにだ

どんな権力でも長期在任すれば嫌でも腐敗する
法律で定められて与えてられている権力以上のことができるようになってしまう
それを腐敗というのだ
贈収賄だけが腐敗ではない
公器の組織を私物化することが腐敗なのだ

最初は正義感と理想に燃えた若きリーダーも、いつしかかわってしまうものだ
何十年という時間はかわってしまうのに十分な時間だ
それも同じ組織のトップに座り続けたなら、よどんでしまうのは当然だ

正義の人もいつしか変わってしまう
それが本作の一つ目のテーマだろう

二つ目のテーマは、911後のFBI の在り方だ

2001年9月11日、未曽有の大惨事の同時多発テロが発生した
FBI を始め米国の情報機関、治安機関はこれを未然に防ぐことができなかった
FBI は単なる全米に捜査権が及ぶ警察ではない
日本の公安警察や戦前の特高警察のような、テロリストや思想犯の取締を行う方が本業に近い
つまりFBI の敗北だったのだ
FBI に取ってパール・ハーバーのようなものだ

そして本作は2011年の公開
911から10年目の節目に製作されたのだ
そこに意味がある
本作のテーマとメッセージがあると思う

911を防げなかった反省は、まるで本作のエドガーが共産主義者を徹底的にマークしたように、イスラム過激派と目される人物を法律の裏付けもなく盗聴や家宅捜査、拘束が行われたのだ
容疑者となればグアンタナモに送り拷問まで加えたというようにFBIを変えてしまった
エドガーの共産主義者狩りの相似形が繰り返されていたのだ
正気を失っていたのかも知れない

そして10年が経過した
本作公開の半年前の2011年5月、
911の首謀者として、FBIが最重要指名手配していたウサマ・ビン・ラディンが米軍特殊部隊の急襲によって殺害された
これで一応の片は付いたのだ
正気に帰る時だ
テロ対策が全てに優先する!、911の首謀者を必ず捕まえるのだ!と、法の範囲を遥かに超えて捜査するようなことは、そろそろ終わりにしなければならない

人は誰しも皆、人に知られたくない秘密を持つ
私生活の全てをガラス張りにして何一つ困ることはないという人物は極めてまれだろう

このエドガーにしても本作のように秘密を抱えていたのだ
彼は絶対に知られたくない秘密を抱える人間だからこそ、人の秘密を握った時にもつパワーを知ってしまった
捜査機関として、人間の秘密を収集し蓄積する組織を作り上げた時、それが持つ恐るべきパワーを知ったのだ
しかしその力がいつしか暴走していき、彼の信じる正義を超えていってしまった
それが本作の物語のあらましだ

つまり911で始まった、野放図で無制限なテロ対策は、本作のエドガーの秘密ファイルようなものだ
そんなものは、そろそろ止めなければならない
さもないと21世紀にまたもエドガーを生むことになる
それは米国最大最強の捜査機関が腐敗するということと同じ意味なのだ

正義と法
正気に帰る時が来た
それが本作のテーマであり、メッセージであったのだ

そして今、本作から更に10年が過ぎた
2021年8月
テロ戦争でアフガニスタンに侵攻した米国は、2011年にビン・ラディンを殺害しても、テロの温床を放置してアフガニスタンから引き上げも出来ず、ずるずると10年も米軍はこの地に駐留を続けて、終わりのないゲリラ戦を続けてきた

そしてバイデン大統領はこんなことは終わらさなければならないとアフガニスタンからの撤退を表明した
それが2011年7月8日のこと
そうして8月16日私達は大混乱のカブール空港のニュースを視た

エドガーの呪いなのかも知れない

あき240