劇場公開日 2011年12月17日

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無言歌 : 映画評論・批評

2011年12月6日更新

2011年12月17日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにてロードショー

厳しい言論統制下にある中国だからこそ生まれた秀作

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1980年代後半、中国映画界に第5世代の波が起こった時、大島渚監督から「ぬるま湯状況の日本と違って、中国のように政治的混沌と弾圧のある国から優れた映画が生まれるのは当然だ」と聞いたことがある。その時は何もそこまで決めつけなくてもと反発したものだが、この「無言歌」を見ると、今さらながらに大島発言に頷かざるを得ない。これは、未だに厳しい言論統制下にある中国だからこそ生まれた秀作だ。規制をかいくぐって作品を生み出そうとする強いパワーと勇気がみなぎっている。政府の許可を得ずに撮影したのも生半可な勇気ではないが、それ以上に作品のベースとなる空気の作り方に監督の勇気を感じるのだ。

この映画では実にあっけなく人が死んでいく。50年代末、毛沢東によって右派分子の烙印を押され、辺境の労働教育農場に送られた知識人たちだ。砂漠に掘った穴蔵に寝起きし、寒さと飢えと病に苦しむ毎日。食糧がないため労働を休止して寝ているだけなのに、毎日死人が出る。飢えに耐えられず死体を食べたと罰せられる人も出てくる。こんな、人間の尊厳を奪われた苛烈な状況をワン・ビン監督は長廻しのロングショットでたんたんと写し出していく。ドラマチックに感情に訴えるのではなく、吹きすさぶ風の中からとぎれとぎれに聞こえてくる彼らの声を丹念に拾っていく。その辛抱強く静かな描写から、イデオロギーの名の下で行われた悲惨な政策への怒りと批判、犠牲になった人たちの無念の思いが粛々と響いてくる。

森山京子

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