劇場公開日 2012年1月14日

ロボジー : インタビュー

2012年1月9日更新
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矢口史靖監督がたどり着いた“ロボット愛×老人愛”の集大成

「スウィングガールズ」「ハッピーフライト」の矢口史靖監督が、“ジジイとロボット”をテーマにした最新作「ロボジー」を完成させた。5年以上も前から練り続けてきた念願の企画だけに、思い入れもひとしおの様子。芸名だけでなくイメージも一新し今作に臨んだミッキー・カーチスこと五十嵐信次郎、若手演技派・吉高由里子との邂逅(かいこう)の軌跡について、矢口監督が語った。(取材・文/編集部)

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今作は、弱小家電メーカーの社員3人が、社長からの厳命により企業広告を目的としたロボット開発を強いられるところから始まる。ロボット博での発表を1週間前に控えながら、大破させてしまう。保身でロボットの中におじいちゃんを入れて出場したところ、見たことのない動きが評判を呼び、一躍人気者として注目を浴びることになってしまう。

矢口監督は、1996年にホンダが発表した人間型自律2足歩行ロボットP2に衝撃を受け、いつかロボットをテーマにした作品を撮りたいと思っていたという。そして今回、ミッキー・カーチス改め五十嵐信次郎を主演に据え、ロボット開発に取り組む人々や、ロボット工学を学ぶ学生たちに焦点を当てることで実現させた。

五十嵐を主演に決めた理由については、「あの大御所が『どんな格好もするし、どんな芝居もするし、なんでも言うことを聞くから出させてくれ』と言ってくださったんです」と述懐。さらに「それに、お芝居ができるおじいちゃん俳優って、かなりキャリアを積まれた方に限られてくるんですよね。そんななか、あの方はなんでもやりたいんだ! と言ってくれたことが決め手になりました」と明かした。

強い覚悟をもって撮影に挑んだ五十嵐に、もはや「ロカビリー3人男」として日劇ウエスタンカーニバルで熱狂的なファンを獲得したミッキーの姿はなかった。姿勢は常に猫背、歩幅も狭くして謎の老人・五十嵐信次郎になりきり、多くの関係者に驚きをもって迎え入れられた。その最たる例として、矢口監督が明かしたエピソードがある。

「(ロケ地となった)北九州で活動している老人劇団の女性のなかに、かつてミッキーさんと映画で共演したことのある方がいたんです。そのおばあちゃんが、『あの格好いいミッキー・カーチスが……、がっかり』とおっしゃったんです。しめた! と思いましたね。『本当は違うんですよ。ふだんは格好いいのですが、かなり無理してあんなおじいちゃんに仕立てているんです』と説明したら納得してくれましたが、老け込んじゃったように見えたんだそうです。非常にうれしくて、今まで存在しなかった人が、まるでぽっと生まれてしまったかのような感覚になりました」

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主人公・鈴木のモデルになった、具体的な人物はいないそうで、矢口監督の父親や近所の一人暮らしの老人など複数のキャラクターを参考にしていったという。「うちの父親は仕事を引退して、最初は酒ばっかり飲んでいたんですよ。それがつまらなくなったみたいで、近所でパートを始めたんです。お金がほしいわけじゃなくて、家でゴロゴロしているよりも社会とつながっていたいということらしいんですよ」

矢口監督の観察眼は、ロボット業界だけにとどまらず、老人全般をも網羅していた。「僕、お年寄りが好きなんですよ。鈴木の場合、奥さんに先立たれてしまっているから余計そうなんですが、仕事をやめていきなりご近所付き合いを始められるわけもなく、今さら生活スタイルを変えられないよっというのがごく自然の形だと感じるんです」。だからこそ「なぜ、そういう人がドラマや映画に出てこなかったのか。どちらかというと、若者を手助けしてしまう、先回りしてしまう人生の達人みたいな人ばかりなんですよね。憎たらしいけれど、最終的に憎めない老人画主人公の映画って、なんで誰も作らないんだろうと思っていたので、今回はそれも達成できましたね」

そしてまた、ロボットおたくの女子学生・葉子という異質なヒロインに、吉高という逸材を配役できたことも今作の大きなアクセントになっている。本気でロボットに恋をし、喜怒哀楽を爆発させる。矢口監督自ら、「本人のもつ変態度が尋常ではない。僕の映画にぴったり」と絶賛しているが、吉高は運命的にも、誰よりも早くオーディションを受けた。

「最初にオーディションに来たのが、彼女だったんです。脚本執筆時には、『誰も見つからなかったらどうしよう』という危機感をもって書いていました。見つかるとは思わなかったんです。それが、本当にぴたっとはまってしまった」

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吉高は近年、日本映画界になくてはならない存在として着実にキャリアを重ねてきた。大作からインディペンデントにいたるまで銀幕を彩る存在は、過剰なまでのロボット愛ゆえに過激な行動に走る葉子を、嬉々とした表情で演じている。「本人とずれがないんです。かわいく見えて、突然ぶち切れて奇異な行動をとるということを、オーディションで他の女優さんにもやってもらいましたが、それはそんな雰囲気のお芝居をしているだけ。彼女は本当にそう見えちゃう。内面に、そういう素養が詰まっているんですよね」と説明する。

五十嵐、吉高だけではない。ロボット開発を命じられる3人組を、濱田岳、川合正悟、川島潤哉がありったけの熱情を放出しながら演じている。田畑智子、和久井映見、小野武彦……、それぞれが適材適所を見事に担ったことで、“矢口ワールド”は新たな境地に突入することになる。

矢口監督は、公開に向けたキャンペーンでいち早く東北へと向かった。そして、東日本大震災という未曾有の災害に見舞われた人々が鑑賞後、満面の笑みを浮かべていることに心を打たれた。

「皆さん、ニッコニコなんですよ。これまで、そんなに意識はしてこなかったけれど、映画は娯楽でさえあればいいと思っていた。それなのに、精神的にも肉体的にも疲弊した人たちが元気になる、エネルギーを充電するということが、映画で可能なんだということを具体的に見てしまった。すごい仕事をしているんだと責任を感じたんです。東北からキャンペーンを始めて、本当に良かったと思います」

それだけに、今後の活動にはが然、関心が集まるところだが「今は完全にゼロになりました。かなり前からロボットが好きで、何年にもわたってロボット展などにも行きました。『スウィングガールズ』や『ハッピーフライト』の間も動いてきたので、長年の夢がかなって何も考えられない状態。次に何をしようか考えるのは、『ロボジー』の公開後になってからですかね」

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