劇場公開日 2012年8月25日

  • 予告編を見る

「心配ない、魅力溢れる剣心がちゃんといる」るろうに剣心 雨と雪さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0心配ない、魅力溢れる剣心がちゃんといる

2012年9月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

萌える

大友 啓史監督ティーチインに
監督の大河ドラマ「龍馬伝」に痺れたオレは興奮した

肩書きとは似合わない「るろ剣」の実写化
「龍馬伝」も革新的だったが、漫画の雰囲気に馴染まない
周知の大ヒット漫画だけに、ファンの目もこの上なく厳しく
オファーする方も受ける方も、チャレンジングだ

「だからこそ撮ってみたくなった」と監督
「マゾでしょう」と自評されたが
いい作品が作れると確信し、その通りに作りあげる
そんな監督の不遜を感じた

中断したり読み直したり、自由に読める漫画
時間制約の中、表現を判り易く伝えたい映画
作りの違いと考えのギャップを埋めるべく
監督は原作者和月 伸宏と何度もイメージを合わせたそう

もともと長回しが多く、役者を追込むタイプと聞く
妥協なく革新的な物を産み出したい、根っからのクリエイター気質
結果、原作者からも絶賛を得たそうだ

時代劇テイストを残しつつ、漫画の空気感を切り取る
こだわったアクション、息もつけぬ疾さは見ごたえ十分
幕末オタクの映画好きには、余すことなく楽しめた
特にこの剣心は、多くの人に受け入れられるだろう

幕末に長州刺客 人斬り抜刀斎として名を馳すも
悔いて素性隠し、流浪に生きる緋村 剣心
背景となる幕末期のリアルな世界観
人斬りの過去、不殺を誓った今
彼の生き様と、贖罪の答え探しの物語だ

面白いのは「龍馬伝」との共通点

人斬り佐藤 健と言えば「龍馬伝」の以蔵
それまでの以蔵がいい意味で壊された
その以蔵が生き残ったイメージと重なる 剣心

岩崎 弥太郎=香川 照之が道を誤ったような 武田 観柳
後藤 象二郎=青木 崇高が熱く庶民になった 相楽 左之介
妖しく謎めいた女性/元=蒼井 優 のような 高荷 恵

そんなイメージから、監督もすんなり漫画の世界観に入れたそうだ
大河より既成概念にこだわらずも、無骨な作りは好みだ

さらに佐藤 健が役にハマる

カッコいいアクションをやりたいと役者生命かけたそうで
怪我を押した稽古が「すごい作品できちゃった」の自賛になる

疾走感溢れるアクションのキレは秀逸
目が追い付かぬも、紙一重の攻防は見ごたえ十分
生身にこだわり、荒唐無稽な技を多用せず
磨き上げたソリッドな殺陣には痺れた
視点の切替え激しく、やや判りにくいのは仕方ないか

ただ、過去の自戒がやや冗長的
剣心の奥行きには欠かせないが、流れが停滞した感あり

しかし、剣心の二面性がいい
のんびりした雰囲気に、可愛らしいさを見せつつ
裏に人斬りという殺気を併せ持つ
監督と作者で、佐藤 健の起用は一致したそうだが
彼以上は、確かに思い当たらない
この魅力的な剣心が描けただけで、成功も同然だ

また軸となる幕末の遺物、侍の悲哀が沁みた

「GANTZ」星人役が印象的な綾野 剛が、ソリッドな外印を
ロッカー吉川 晃司が、職人的な狂気を帯びた鵜堂 刃衛を
むしろ龍馬が似合う江口 洋介が、新撰組の斎藤 一を演じる
彼らのキャラが立って、ちゃんとドス黒いから主役が映える

蛇足だが、須藤 元気演じる戌亥番神が肉を勧められ
「ベジタリアンなんだよ」と言う
須藤がベジタリアンなのを知っていたので軽く笑えた

彼らは侍として死ぬこと=士道を覚悟していた
それが明治となり、時代の徒花となる
剣は終わり、平和は彼らを忌み嫌う
切替えて阿片で金稼ぐ観柳と、変われないで燻ぶる士族
そんな時代背景は、史実と離れず当時のリアルを見せる

剣心も、彼らと紙一重
不殺を誓いながら、刀を捨てきれない
しかし神谷活心流という“剣で活かす”信念を知り
剣に殺す以外の存在意義を見出すことで、救われる

剣は剣心自身のメタファーだ
廃刀令は自らを不用と断されたも同じ
刀を捨てずも逆刃刀なので不殺という屁理屈
その矛盾は、自身の迷いの証明だ

活心という、青臭さに解放される剣心
逆に「人斬りは死ぬまで人斬りだ」という刃衛
コントラストが、侍の悲哀を色濃く見せる

るろうの身から、守るものができた剣心はその分強くなる
青臭くも普遍的な生き様が気持ちいい

雨と雪