劇場公開日 2011年7月2日

「理不尽な運命の中にもほんのり明かりを灯す」小川の辺 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5理不尽な運命の中にもほんのり明かりを灯す

2011年7月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

毎年のように映画化される藤沢周平原作作品。共通しているのは、地方小藩の家臣が主人公であること。また、剣術の腕に優れていること。そして理不尽な殺生を余儀なくされることだ。
今作の朔之助も〈上意〉の名の下、妹の夫を切らねばならなくなる。さらに、この作品はポイントがもうひとつあって、妹・田鶴も剣の使い手ということだ。田鶴が歯向かってきたらどうするか、父・忠左衛門は「そのときは斬れ」と言う。代々家臣を努めてきた武家にとって当然の言葉だが、苦渋の決断をする父の心を思う朔之助を東山紀之が好演。ただ、今回の作品は、台詞に訛りがないのが特徴。

脱藩した佐久間が民のために男気を見せるエピソードを挟み、佐久間と朔之助の御前試合を通して拮抗した剣の腕を伏線に置く。そして肝心の妹・田鶴はなかなか登場しない。
その田鶴を想う戌井家の奉公人・新蔵の存在が大きい。朔之助の伴をするなかで、武家の主従関係や作法を垣間見せ、自然を切り取った映像と共に作品に味わいと深みを持たせた。田鶴をなんとか斬り合いの場に遭遇させないよう計らう新蔵と、その意を汲み取る朔之助とのやりとりは主従関係を超えたものがある。
それだけに、いざ、決闘に向かう場面は、藤沢作品の中でもひときわ緊張感が漂った。

音楽が「蝉しぐれ」だったかの旋律がまつわりついて、度々意識がスクリーンから逸脱してしまったが、監督の篠原哲雄は、理不尽な運命の中にもほんのり明かりを灯す粋な演出が相変わらず巧い。

マスター@だんだん