劇場公開日 2010年8月14日

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「自分には難しすぎた」瞳の奥の秘密 s'il vous plaît!さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自分には難しすぎた

2010年9月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

アルゼンチン映画は初めて見ました。スペイン語の持つリズムがあんなにも心地よいことに大変驚きました。同じラテン系でもフランス語とはまた違った味わいがあってよいですね。

閑話休題

凄い映画でした。正直言って作り手側のぶつけてきたものを全く受け止めきれなかった気がします。やはり25年という時間の経過がしっかりと描かれていることがこの映画を他の映画ではなかなか見えてこない問題を鮮明に浮かび上がらせているのでしょう。
この映画で最も印象的だったのは過去に人生を左右するような大きな出来事に遭遇した人たちの、のちの人生における過去との向き合い方でした。ある人は現実に没頭することで過去への関心を振り払おうとする、ある人は過去の事実から逃避して過去と正面から向き合うことを避けることで過去から逃れようとする、過去にこだわりあまり現在・未来に対して虚無しか感じない人もいる、そしてある人は過去を小説にしたため積極的に過去と向き合い乗り越えようと必死にもがきます。一概にどれが最良の方法なのかはわかりません。この映画では主人公の過去との向き合い方が一番良いものだと言いたげでしたが、もしかしたら一生過去から目を背けたまま死んでいくのが一番幸せなのかもしれません。いずれにしても間違いなくいえるのは、忘れ難い出来事に遭遇した人間は、その後の人生では過去に対して意識的に向き合っていかざるを得なくなるという事実なのではないでしょうか。たとえ徹底的に過去を無視するという方法をとるにしてもです。自分にはそんな過去はない(と思っている)ですが、いつの日かぬぐい去り難い過去と自覚的に向き合わざるを得ない日が来るのだ、と考えると人生を重ねることに億劫になってしまいそうな気分です。

もう一つ印象に残ったのは、主人公の同僚が放った「人には変われないものがある」という言葉です。確かにイリーナは25年経っても大事な話をする時には扉を閉めようとするし、パブロは酒飲みとそれに続く喧嘩が止められない。ゴメスは逃亡中でも大好きなサッカー観戦が止められない。どうやらどんなに時間が経っても状況が切迫しても変えられないものがあるようです。恐らく「瞳」もそのうちの一つなのでしょう。劇中でベンハミンは「瞳は雄弁である」と語っていましたが、それは瞳がどんなに取り繕っても変わる事なく自分の本心を他者に発信し続けるからなのではないでしょうか。

それから全編を通してピンぼけしている映像が多いのが気になりましたが、あれは何だったのでしょうか?自分には演出上の効果が見いだせませんでした。

いずれにしてもこの映画は人生経験が多い人なら自分の人生に引きつけて見ることのできる映画なのだと思います。25年経ったらまた見てみたいと半ば本気で考えています。

s'il vous plaît!