劇場公開日 2009年12月26日

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「観る、見る、魅る」ずっとあなたを愛してる ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0観る、見る、魅る

2011年4月9日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

幸せ

フランスの小説家、フィリップ・クローデルが監督を務め、名優クリスティン・スコット=トーマスを迎えて描く、一人の女性が辿る小さな再生の物語。

様々な色が入り混じる瞳が、印象的である。人種から来る色だけではない。好奇の色、疑惑の色、思慕の色。一つの物語の中で、人間の眼差しを通してこうも複雑に、豊かに伝わってくる心の機微。むせ返るような困惑の熱気と、そのもやもやを乗り越えた先に広がっていた、爽やかな風。

事件のような事件が一切起こらない毎日を淡々と描く世界を観賞する一時。そこから見えてきたのは、余りにシンプルな、そして魅力的な市井の人々の暖かさと、面倒くささだった。

15年間、自分の息子を殺した罪で刑務所に服役していた女性、ジュリエット。本作は、彼女がなぜ、愛する息子を手にかけたのかという一つの疑問を解き明かすというテーマを最初に提示し、始まっている。だが、観客は物語に寄り添っていくうちに、気が付く。

そんなことは、もう、どうだっていいんだ。

彼女が15年の苦悩の先に開け放った日常には、過去を受け入れられない自分に苦しみながらも、女性を見つめる妹。女性を戸惑いながらも見守る人間たちが、いた。女性を根本的に助け出す答えは見つからない。でも、何も言わずに、笑顔で支える。その無関心ではない素っ気無さが、嬉しい。

ゆっくり、静かに、立ち上がっておいで。

上手くいかない毎日の中で、きっと自分一人が生きているような孤独に苦しめられる人がいる。そんな自分を平気で苦しめる人間がいる。それを承知したうえで、本作はそれでも誠実に、不器用に生きていく一人の女性を肯定する。それはそのまま、日常に打たれ、前に進めない私達もまた肯定してくれる。

人とぶつかるのは、本当にややこしい。嫌になることもある。でも・・どうしようもなく暖かいことだってある。女性が最後に見せる眼差しは、部屋に差し込んだ光に照らされ美しく輝いてる。それで、救われた・・・誰が?彼女が?

いや、私達が。

ダックス奮闘{ふんとう}