アンナと過ごした4日間のレビュー・感想・評価
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もう笑うしかないです。
ラストであっけにとられました。今まで行ったことのない場所に連れていかれました。
ラストシーンでアンナの家は無かった。そして一瞬挿入される、主人公の起こした事件の記事をむさぼり読む男。あれはまぎれもなく主人公だ。
ここで扱われているのは、「映画とは現実か」という映画の究極の問いだ。そのための仕掛けは、巧妙に張り巡らさていた。
あっけにとられて何とかしなくてはならなくなった私は、先日みた「ロード・オブ・ザ・リング」のスピンオフである「ホビット」を持ち出した。あの中身のない話を3時間楽しませるあの徹底的な細部。あれは一種の映像トリップ体験だった。
いい映画とはリアリティである、と逃げようとした。
しかし、この作品によって連れて行かれた場所は、そんな理屈で戻ってこれる場所ではなかった。
そこには、美しく問答無用に圧倒的なフィクションと現実のウロボロスが横たわっていた。
こりゃ凄い。凄すぎる(笑)
内気すぎるのは罪か?
主人公レオンがアンナに対する愛情を、異常とも取れる行動でしか表現できないのは、ひとえに彼が内気だから。ポーランドの鬼才、スコリモフスキ監督の17年ぶりの新作は、新聞記事にあった内気な日本人青年の小さな記事から。追い詰められた内気な人間が放つ突飛な行動がスコリモフスキ監督の創作意欲を掻き立てることとなる。覗きなどのストーカー行為を題材とする作品は多々作られている。ほとんどが猟奇的なサスペンス作品となるが、中にはそれを“純愛”とし、至高のラブ・ストーリーへと転化させる作品もしばしば観られる。本作はもちろん後者だが、スコリモフスキ監督は単純な純愛物語とはしなかった。
冤罪で服役した過去を持ち、病気の祖母の面倒をみながら、病院の焼却施設で切断された手足を焼く作業をしている孤独な中年男性。吃音のせいで人との会話もままならない彼の普段の表情は、強面の疲れた中年・・・。しかし、一途に思いつめているアンナを見つめる時、まっすぐな瞳を輝かせた少年のそれとなる。その表情を見るだけでも切なくて胸が熱くなる。何故なら、彼の想いが通じることはないという予感をぬぐえないから・・・。彼は夜、眠ったアンナの部屋へ忍び込む。彼にとって至福の4日間は、現実的には犯罪以外の何ものでもないから・・・。
私は、アンナの気持ちを考えずにいられない。「こんなにも想われて幸せ」と感じる女性は、世の中にはほとんどいない。ましてや過去にレイプされた経験のある女性なら。無骨で無口で、不気味な表情をたたえている男に、覗かれ、寝室に侵入される恐怖。2人の想いの大きな“差”が、あまりにも哀しい。
河から流れてくる牛の死体、朝日をあびる教会の尖塔、そしてラストシーンの壁。物語の結末は夢とも現ともつかない。暗示的な映像で、観る者を混乱に陥れるスコリモフスキ・マジックに魅せられ、寡作な監督の次回作をすぐにも見たくなる。
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