扉をたたく人 : 新作映画評論

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扉をたたく人

劇場公開日 2009年6月27日
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扉をたたく人 6月27日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー

かすかな寂寥感と豊かな余韻を残す秀作

思わずイーストウッドの「グラン・トリノ」と比較したくなる、ほろ苦い後味を残す秀作だ。

妻の死後、頑迷なまでに自己を閉ざしてきた大学教授ウォルターが、シリアの移民青年タレクとの出会いによって、内面的な変貌を遂げていく。くだくだしい説明を廃し、ジャンベ(アフリカン・ドラム)の軽快なリズムを介して、異文化を背負った者同士が融和していくさまが簡潔に語られる。この省略と抑制こそが、「父親たちの星条旗」に出演した監督トム・マッカーシーがイーストウッドから学んだ演出術の最大の美徳であろう。

しかし、タレクは不法移民として逮捕され、入管管理局の施設に収容されて、強制送還の不安に晒される。映画は、9・11以後のアメリカを覆い尽くす、澱んだ不寛容な空気を切り取ってみせるが、一方で、原題の“訪問者”が示す通り、冒頭から扉をノックし、主人公が意想外な人物たちと遭遇するシーンがシンボリックに変奏される。極めつけが、タレクの母親モーナの登場だ。内気で控え目なふたりがひとつ屋根の下で暮らし、親密になっていくくだりの描写は、切実なトーンで見る者の心をざわめかせる。リチャード・ジェンキンスはオスカーに本来相応しい名演を見せるが、モーナを演じたヒアム・アッバスも、その眼差しに深い哀しみと陰翳をたたえて忘れがたい。旧来のハリウッド映画なら、仮そめの希望を謳い上げる安直なメロドラマとして収束させたかもしれない。しかし、映画は過酷な現実を見据え、かすかな寂寥感と豊かな余韻を残して終わる。その慎ましやかさこそ称讃に値する。

高崎俊夫

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