劇場公開日 2008年5月3日

「靖国コスプレショー」靖国 YASUKUNI kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0靖国コスプレショー

2019年12月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 右翼の妨害に遭い上映中止などの騒動があった問題作。文化庁推薦とか協力という問題も浮上していたようですが、この田舎石川県にまでは届いてこなかったようです。上映映画館であるシネモンドのある109ビル前では第三日曜日には右翼の街宣が行われるのに、『靖国』上映には何も言ってこなかったらしい・・・なぜだか「右翼でも左翼でもない。中翼(仲良く)だ!」という名言を残した藤岡弘、を思い出してしまいます。

 そう、この物議を醸し出した映画。頭の中を空っぽにして観ると、中国人監督が作ったドキュメンタリーとは思えないほど中立の立場で描かれていることがわかります。終戦記念日である8月15日には時代錯誤甚だしい軍服姿のじいちゃんや、「大東亜戦争は侵略戦争じゃない」と声高に主張する右翼のあんちゃんなど、様々なパフォーマンスが見られ、神社の敷地内だけがタイムスリップしたかのような錯覚に陥ってしまうほど。中には「小泉首相を応援する」と主張するヘンなアメリカ人もいたり、その外人に対して意図もわからないのに「リメンバー、ヒロシマ」と罵声を浴びせる人もいたりして、ドキュメンタリー作家にとっては美味しい素材がいっぱいあるんですね。

 失笑を禁じえないパフォーマーの姿々。そんな数々の愉快な人たちの中でも、不謹慎かもしれませんが、「南京大虐殺を否定する」署名運動が一番笑えた・・・署名したからって、どうなるってーのよ。「ほら、こんなに署名が集まったんだから南京虐殺なんてなかったでしょ?」とでも中国人に訴えるんでしょうか?同じ日本人として“なかったことにしたい気持”は理解できるけど、そこまでやるんだったらセコセコと靖国内でやるより、堂々と南京に乗り込んで行ってやってもらいたい。もちろん署名運動団長は石原慎太郎、副団長は稲田朋美で。

 中立的という世間的評判とは裏腹に、個人的には風刺のパンチ力がかなりあったように感じました。とくに、日本人の心を尊重することを主張する元首相の言葉とは逆説的に、台湾や韓国の洗脳されて日本軍として戦争へと追いやられた外国人の遺族の心が蔑ろにされている点が強烈だ。高砂義勇兵の魂を取り戻すべく靖国へ7度も訪れているという台湾の高金素梅(きれいな女性)の主張は理路整然としているのに、取りあわない神社側。また、僧侶である遺族の菅原さんのインタビューも辛辣だった。

 戦争の犠牲になった戦没者、英霊に感謝すること自体は自然なことだし、非難される理由はない。だけど、靖国には様々な問題点があることを忘れてはならない。政治家の詭弁に踊らされることなく、冷静に判断する材料をこの映画は与えてくれるのだ。また、刀匠の刈谷さんの仕事風景やインタビューを主軸にした構成によって作られていることも、日本人の魂に訴えてくるのです。一部の政治家が煽った、プロパガンダだとか助成金云々なんて議論することすらばかばかしい。

〈公開時 映画館にて、レビューは当時のまま〉
右翼が妨害しにやってくるかとドキドキしながら観ました。

kossy