劇場公開日 2008年1月5日

「無視できない小さな正月映画でした」勇者たちの戦場 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0無視できない小さな正月映画でした

2009年3月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 この作品の原題は「勇者の故郷」。戦場という言葉はどこにもない。しかし、この作品を観た人なら、戦場という言葉の重さを感じずにはいられなくなる。それほどに、この作品で描かれている兵士たちを迎える故郷が、兵士たちにとっては戦場のように冷酷であることに、観客は愕然とさせられる。

 「勇者たちの戦場」は、今も行われているイラク戦争に参加したアメリカの兵士たちが戦地で肉体的にも精神的にも傷つき、帰郷してからもなお普通の暮らしができないこと、そして一般の人々にイラクでの戦いを理解されないことの苦悩と怒りを描いている。アメリカでは過去にも、傷ついてベトナム戦争から帰還した兵士を描いた映画がいくつも製作されてきたが、この作品の場合は、まだイラクに多くの兵士たちが赴任して困難に立ち向かっているだけに、役者が演じているとは言え、登場する兵士たちの姿は、ベトナム戦争当時を描いた作品とは比較できないくらいに真実味や現実感に溢れている。
 この作品のテーマは、アメリカ国内にあるイラク戦争に対する思いと、実際に戦地を経験した兵士たちの思いとが、あまりにかけ離れていることだ。今のアメリカには、この戦争は間違っているという思いがあるせいか、戦争そのものの現実を見ようとしない人が多い。しかし傷ついた兵士たちにとって、今も続く戦争という現実は一般のアメリカ人よりも重くのしかかっている。この作品の製作者たちは、一般のアメリカ人とイラクに行った兵士たちとの心の断層の大きさを、観客に問題提起するかのように、迫真の演出で見せ続けている。
 イラク戦争が正しいかどうか、ではなく、現実に起きて参加している戦争に我々はどう向き合うべきなのか、ということを、この作品を見た後に真剣に考えさせられた。華やかな正月映画の中でひっそりと公開されたことが、あまりにももったいない秀作だと思う。

こもねこ