劇場公開日 2023年9月9日

「不器用な二人の不器用な愛」オアシス inosan009さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0不器用な二人の不器用な愛

2024年4月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

 前年の映画賞で高い評価を得た『ジョゼと虎と魚たち』をはじめとして、障がい者を扱った映画は少なくないが、人間への深い洞察力と映画が与える衝撃の大きさにおいて本作は一線を画している。鏡に反射した光が蝶や鳩に変化するシーンや、重度の障がいがある主人公が、一瞬、健常者のように立ち上がってはしゃいでみせるショットなどで、彼女の感情や心の動きを表現する演出が見事だ。

 脳性麻痺の女性を演じるムン・ソリの壮絶な演技が観る者を圧倒する。映画でここまでやっていいのだろうかという不安すら感じさせられるが、そんな映画のタブーさえもが差別なのだという、作者たちの強い意志が本作を支えている。『ジョゼ虎』では、男は結局、障がい者の彼女のもとを去っていったが、ここでは、警察に囚われた男は、脱走し彼女のオアシスに不安の影を落とす街路樹の枝を切る。ラジオのボリュームを上げてそれに応える彼女。不器用なふたりの精一杯の心の吐露が切なくいとおしく、見る者の胸を締め付ける。涙が溢れて止まらない。

 空想の世界で遊ぶしかなかった彼女が、明るい日差しの差す部屋で掃除をしているさりげないラストが、人間の生きる希望を象徴して美しい。名作である。

inosan009