劇場公開日 2001年5月19日

「どんなお仕置きにもめげずに書きまくるエロ作家と、あれこれ手を尽くす...」クイルズ 雨丘もびりさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0どんなお仕置きにもめげずに書きまくるエロ作家と、あれこれ手を尽くす...

2024年1月31日
PCから投稿

どんなお仕置きにもめげずに書きまくるエロ作家と、あれこれ手を尽くすも裏をかかれて彼を止められない精神医学博士&神父のいたちごっこ。
けらけら笑いながら観た。

【毒にも薬にもなるポルノ小説、世に蔓延る】
ドギツイ内容になりがちなお話なのに、なまぐさい匂いをきれいに取り除いた映画。監督の品の良さを感じる。
凄惨な時代を舞台にしながら、現実と想像の攻防をテンポよく見せてくれる手腕は、テリー=ギリアム作品を思い起こさせる。
生々しい激痛描写を抑え、演技ですよと目くばせするようなコミカル表現も良心的。
ワザと大仰に振る舞うG.ラッシュと、いろいろ滲み出すぎな無表情を装うM.ケインの、ノリに乗った演技応酬がもうたまらない♪。

その実、見やすい劇の裏にあるテーマは深刻。
冒頭、断頭台で処刑される寸前の女性が、被虐の恐怖を快楽に転化しようとして「物語」に没入するシーンが悲しい。
逃れられない現実をことばで茶化したり、闘ったり、見下してバカにしたり、嘘ついて逃げおおせたりする登場人物たち。
彼らの台詞ひとつずつが、小さな革命の火花として随所にスパークしている。

星マイナス1は、サド侯爵の主張に疑問が残ったため。
本作の文脈上、抑制の強い社会でこそインモラルな欲求が高沸するということならば、
過度に露悪的な欲求が人間の本性か?どうも腑に落ちなかった。
あくまで、置かれた環境から相対的に生じた一面でしかないと思うので。

自由奔放な表現は悲劇を生む危険性も孕んでおり、時として書き手の大切な人でさえも傷つけかねないということをきちんと劇中で描いているところが、とてもフェアだなと思った。
サド侯爵の肉体は滅びても、作品はあんな方法で、魂はこんな方法で、それぞれ生き続け、世に蔓延る。
オチのブラックさもぎらりと光る、非情にセンスの良いw映画だった。

雨丘もびり