劇場公開日 1987年3月21日

「粗暴で不器用な“アウトロー天使”に神の祝福を与えたまえ」モナリザ 岡田寛司(映画.com編集部)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0粗暴で不器用な“アウトロー天使”に神の祝福を与えたまえ

2020年4月8日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

笑える

萌える

映画における冒頭10分は非常に重要です。本作では、ナット・キング・コールによる同名主題歌「Mona Lisa」の調べとともに、中年のアウトロー・ジョージを“愛すべきキャラ”へと見事に転身させています。朝焼け、7年ぶりのシャバ、元妻から娘との対面を阻まれ、かつての仲間にはそっぽを向かれてしまい、ハイテク社会に右往左往する(浦島太郎状態)。そして、たどり着いた職は高級娼婦シモーヌの専属ドライバー。ボブ・ホスキンス、超ハマり役です。ちんちくりん具合が最高。

この粗暴で短絡的なジョージがなぜ憎めないのか――それは、物語が進むにつれ、どんな女性も“レディー”として扱うようになっていくから。シモーヌのサポートで、チンピラ服を脱ぎ、高級スーツへ――アルコールも控え、注文はお茶に。ここで登場する小粋なセリフが素晴らしい。ホテルのウェイターから「飲み物は?」と聞かれ「お茶でいい」(初期は即座に「ブラッディ・マリー」を注文していたのに…)。さらに「アールグレイでいいですか?」と問われ「いや、お茶でいい」。このシーン、本当に愛おしいんです。

物語は後半に向かうにつれ、裏社会の事情も絡み合い、ミステリー要素が増してきます。シモーヌが“求めている者”がキーになってくるのですが、ここでまたニクイ演出。ジョージの衣装に注目しながら見てください。高級スーツの白シャツが、ある瞬間から、チンピラ風のガラシャツへと転じています。つまり、アウトローに戻らなければ、闇に埋もれたアンサーにはたどり着けない。裏社会も絡んできますから、勿論銃撃戦も描かれます。この銃撃戦が、これまた、泣ける。ジョージをハグしたくなるほど、泣ける――。

鑑賞時、気にしてもらいたい会話があります。それがジョージと腐れ縁のトーマスとの2ショットで登場するやり取り(冒頭10分以内に出ますよ)。

トーマス「女は不可解だからな。スカートにおしろい、天国では羽をもらえる」

ジョージ「天使は男だ」

トーマス「初耳だ」

ジョージ「本当だ。天使は男なんだ」

本作におけるジョージは、シモーヌ(=聖人)によって命を授かった“天使”として位置づけられます。彼女の願いを叶えるために奔走する“天使”。そんな彼がふと願ってしまった「自分の幸せ」。しかし、シモーヌが求めていたのは、あくまで“天使”だった――このすれ違いが良いんです。だから、鑑賞した人ならきっと思うでしょう。「ジョージに神の祝福あれ」と。

余談:ニッチな場面なのですが、連続顔面鞭打ちに鬼の形相で耐え抜くボブ・ホスキンスも見どころです。

岡田寛司(映画.com編集部)