劇場公開日 1978年6月17日

「女性の友情を美しくまとめた”女性映画”の決定版にして、ジンネマン監督の熟練の演出美が最良」ジュリア Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0女性の友情を美しくまとめた”女性映画”の決定版にして、ジンネマン監督の熟練の演出美が最良

2020年4月18日
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鑑賞方法:映画館

ベトナム戦争が混迷の末終わりを遂げてアメリカの威信が失墜した同時期に、自立した女性が主人公のアメリカ映画が顕在化した1970年代後半の、所謂”女性映画”を代表する傑作。フレッド・ジンネマン監督は、代表作「山河遥かなり」「真昼の決闘」「地上より永遠に」「尼僧物語」「わが命つきるとも」「ジャッカルの日」で分かるように、シーンやシークエンスの意図が明確な骨格の確りした映画文体が特徴の堅実で正攻法の演出をする、一種の完璧主義者の芸術家だった。その良質の特徴は、この作品でも完成度高く表現されていて、ジンネマン監督の最高傑作と云えると思う。それは、女性同士の友情を描いて、その美しさが他に類を見ないからであり、主人公リリアン・ヘルマンの回想録を脚色したアルビン・サージェントのドラマ構成が見事な盛り上がりを創造しているからだ。その最もたるものが、ジュリアの政治運動資金をリリアンがベルリンで手渡すシークエンスで、その前のサスペンスの緊張感が生む余韻が素晴らしい効果を生んでいる。堅実さと「ジャッカルの日」で見せたサスペンス技巧が溶け合う、ジンネマン監督の熟練の演出美が素晴らしい。また、リリアンのジェーン・ホンダとジュリアのバネッサ・レッドグレープの演技力と、それを支える名脇役ジェースン・ロバーツとマクシミリアン・シェルの滋味も特筆すべきもの。「裸足のイサドラ」と並ぶレッドグレープの名演が個人的には好感度高いが、4人すべてが上質の演技で重厚なアンサンブルのカルテットを奏でる。フォンダとシェルが惜しくもアカデミー賞を逸して勿体ないと思えるほどに感心せずにはいられなかった。これは、映画と演劇に長けた人ほど楽しむべき作品だと思う。
ならば何故もっと評価しないのか。上記の賛辞とは別に、完璧なものが持つ、他方からの不満が生まれる贅沢な注文であり、我儘な要求が発生する創造の辛さがある。つまり、第二次世界大戦の背景が美しいシーンとして再現され、女性同士の美しい友情と男女の慈しむ愛情が並行して巧みに描かれた良さとは別に、リアリズムのもつ感覚的な味わいがジンネマン監督の映像作りから除外されたことへの不満だ。または、優れた人間をヒロイックに描く理想主義の作為に抱く人間味臭い反感かも知れない。芸術には破綻が必要とする、個人的信条も少なからずある。これは優れた作品に付きまとう答えのない追求であり、だからこそ面白いのではあるが。
    1978年  10月26日  ギンレイホール

Gustav