劇場公開日 1985年6月22日

「ぼんやりと、愛」海辺のポーリーヌ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ぼんやりと、愛

2021年12月16日
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身勝手な人々が織り成す恋愛喜劇、あるいは悲劇。

都合の悪いことには目を瞑りながら「普遍の愛」なるものを追求するマリオン。愛と性欲の転倒を「女子供にはわからん」と高尚化するアンリ。恋路を踏みつけ自分がそこに座り直すためであれば周囲を顧みない告発劇も厭わないピエール。若さゆえナイーブな感受性を振り回すシルヴァン。若さゆえ純粋潔白こそを愛の史上の条件と信じて疑わないポーリーヌ。

彼らの抱く恋愛観は等しく美しく、そして等しく愚かだ。愛というものは他者とのさまざまな接触や破綻を経験する際に刹那の火花のように閃くものであり、自分の思考の中に完結するそれは狭隘な思い込みに過ぎない。

この映画の中にはさまざまな接触がある。そして破綻がある。そのひとつひとつは単なるカタルシスに過ぎず、我々はそれを見て素朴に笑ったり悲しんだりすればいい。

けれども映画を見終わったあとでそっと後ろを振り返ってみると、そこには大いなる愛の真実のようなものがぼんやりと浮かび上がっている。刹那の火花が残した残像が、ほんの少しではあるが愛の輪郭を描画しているのがわかる。

とはいえ「だったらお前、愛が何だか今すぐ説明してみろよ」などと詰められると答えに窮してしまう。私に言えるのは、それに答えるためには私一人の思考だけでは到底足りない、ということだけだ。

目には見えないが確かにそこにある、そういう気配を感じる物語。

因果