劇場公開日 2002年5月3日

「日本製韓国映画」KT ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0日本製韓国映画

2021年10月6日
iPhoneアプリから投稿

いい意味で韓国映画みたいな日本映画。
わたくし「人類資金」を観て以来、軽く阪本順治恐怖症でしたが、今回は問題なく生還できました。
普通に面白かった。知ってる顔がみんな若いなー。
原田芳雄を筆頭に、佐藤浩一、柄本明、香川照之、麿赤兒など豪華キャスト目白押し。
鶴の一声を受ける官房長官が円谷作品でお馴染み佐原健二。音楽はなぜか布袋寅泰。

金大中誘拐事件の裏にあるKCIAと自衛官の関係を描いた影の日韓史。
三島由紀夫の自決事件から始まるのも、観ていくうちにだんだん理由がわかってくる。

実際のところは原作も読んでいないしわからないけど、少なくともこうすれば日本でもポリティカルなサスペンスが作れる、というレアな成功例ではある。
全体に地味だし、事件を知らない人には話が見えない危険性はあるけど、今ほどCGが使えない2000年代初頭に、車やロケ場所の工夫でちゃんと70年代の空気を出しているのはすごい。

佐藤浩一演じる自衛官は、歴史の中で自分の役割を持っているKCIAのキムをうらやましく思っていたんだろうなぁ。
それはたぶん自身のアイデンティティを求めて無邪気にリスクに近づく筒井道隆と大差なく、その道のプロではあるとはいえたいへん危なっかしい。
衣食足りて礼を知る、ならぬ意味を欲しがる彼の悩みはしかし、キムからすれば贅沢な悩みでしかないはず。

後半になるにつれ、互いにない物ねだりしてる男同士のブロマンスのようになっていくけど、韓国映画ほど前面に押し出してこないし、とくに序盤ではそのラインが見えづらかった。

代わりに強烈な存在感を示す原田芳雄はモロ戦後日本の象徴的なキャラクターで、その名も神川昭和。
現実にいたらそんなカッコいいわけないと思うけど、左も右もなくただ生きてること自体に意味があるんだと公言して憚らない飄々としたノンポリ。
でもそれも凄惨な歴史を目の当たりにした記憶があるからこそというパラドックス。

佐藤浩一みたいな憂国保守は絶滅危惧種というか、20年後の今、もはや実在しないのかも知れない。
そう考えるとますます日本の観客にとって誰得なんだ感は拭えない。

ipxqi