陸軍中野学校のレビュー・感想・評価
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愛する人をとるか、任務をとるか
日本のスパイものの傑作。実在した諜報活動員を育成する機関を題材に、家族や恋人をとるのか、任務をとるのかで引き裂かれる人物たちを見事にドラマチックに描いている。死んだことにされる諜報員候補生たち。お国のために約束された将来も犠牲にして諜報を学ぶが、影働きのためにその功績が日の目を見ることは少ない。
主人公には婚約者がいる。婚約者の女性は突然消えた主人公を探すために陸軍でタイピストとなるが、重要な機密を知ってしまい、運命のいたずらで外部に機密を漏らしてしまう。それを知った主人公は、任務のために非情の決断を迫られる。正体を隠さねばならないスパイと、婚約者の愛情との葛藤に揺れつつ、国のために人生をささげる非情さが描かれる。
諜報活動は影働きとはいえ、非常に重要なもので、一つの情報が数万の兵の命を左右することもある。スパイとは、そういう大きな全体の犠牲となる「個」の代表的な存在だ。そこがしっかり描かれた本作は、欧米のスパイものの傑作と比べても劣らない素晴らしい作品だ。
スパイとは何か? 市川雷蔵がそれを演じます
これは隠れた名作!面白い!
なるほど本作を入れて5作もシリーズ作品が撮られるはずです
スパイと言えば007シリーズ
本作は1966年5月の公開ですから、007サンダーボール作戦の半年後の公開です
次回作の日本が舞台となる007は二度死ぬは1年後の公開です
企画としては007人気にあやかって日本のスパイ映画をだそうと言うものかと思います
ジェームスボンドは如何にして誕生したのか?
それは007シリーズでは語られません
彼は大戦中に海軍中尉として任官しています
と言うことは本作の市川雷蔵が演じる主人公三好次郎陸軍少尉とほぼ近い年齢になります
ジェームスボンドもまた本作の中野学校のような英国のスパイ養成機関で訓練を積んでいるはずなのです
そして本作での最初のスパイ活動は英国の横浜領事館の暗号コードブックの入手なのです
陸軍中野学校は実在のスパイ養成機関です
当時の教官が後年出版した手記を読んだことがありますが、概ねその内容に沿っています
序盤の広げた地図の下の机に何があったのかのテストや、講義内容はその本にもあったエピソードほぼそのままです
本作では加東大介演じる草薙中佐の個人プレーの組織のようですが、陸軍内部での長年設立の努力が続けられて肝入りで創設されたもので、実在の中野学校は決して寺子屋と揶揄されるようなものではありません
1938年創立なので、開戦の僅か3年前に過ぎません
せめてもう20年早く、第一大戦終結直後くらいの設立であったなら、日本が対米戦争に突入するという自滅の道には進まなかったことでしょう
市川雷蔵は主人公であるもののあまり出番はありません
どちらかと言うと加東大介の方が中盤までは目立っています
スパイとは何か
これが本作のテーマです
終盤はこのテーマの答えとなるエピソードで締めくくられます
そこで初めて市川雷蔵が主人公に配役された意味を見せてくれます
日本のジェームスボンドの誕生です
早く次回作を観たくなりました
敗戦によって日本には情報機関がなくなってしまいました
小説や映画では内閣情報室とか、陸上自衛隊別班とか登場しますが本当のところはどうか分かりません
本作で描かれた陸軍中野学校の系譜を汲んでいるのかも知れません
情報機関がないというのは、濃霧の闇夜をレーダー無しで航海するようなものです
自衛隊と同様に情報機関は、国土と国民の生命と財産を守る為には不可欠な存在だと思います
令和の中野学校が無ければ、戦前のように国家方針の過ちをまた繰り返しかねないのです
市川雷蔵の美しさはいったなんなんだろう
このての映画には興味はなかった。しかし、雷蔵出演が故に一度は観なくては…そんな気持ちが湧いていた。
冷酷さを演じるのは難しい。
感情を出さない演技にはどこか不自然さが伴う。
冷淡な表情には愚かさが付きまとい苦悩ばかりが目立ってしまい観ているものは嘘だと感じてしまう。過剰さは醜さに繋がる。
雷蔵はそうはさせない。
恋人に毒を盛るシーンの表情にその全てが凝縮されている。世を拗ね、無頼の徒として生きる覚悟が垣間見える。もはや。この一作で、この映画のシリーズは終わってしまったかのようだ。
映画版ジョーカーゲーム以上
50年前の作品とは思えない構成力にびっくり。しかも単なるエンターテイメントではなく、スパイの悲劇性や残酷さなども含まれて静かに押し寄せてくる。元々小説のジョーカーゲームが好きで、映画も見たが、エンターテイメントに偏りすぎてスパイ自体を軽く扱っていたが、こちらの作品の方が小説版に雰囲気が似ているといっても過言ではない。
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