劇場公開日 1959年12月25日

「元々歌舞伎役者で女形だった大川橋蔵の代表作」雪之丞変化(1959) 野川新栄さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0元々歌舞伎役者で女形だった大川橋蔵の代表作

2021年6月30日
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鑑賞方法:DVD/BD

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原作未読

イケメン剣戟スター大川橋蔵の一人三役
雪之丞と父清左衛門と闇太郎全て大川橋蔵
CGがない時代にツーショットはダブルロールという大変手間のかかる技術で撮影された
しかしそもそも一人二役とか三役とか必要だとは思えない
それぞれ違う役者が演じれば良かろう
しかしそれは野暮ってもんかもしれない
少なくともこの作品は誰が演じてもなぜか雪之丞闇太郎の一人二役だけはお決まり
実は双子でしたとか「そっくりじゃねーか」というやりとりはない
娯楽時代劇とはいえ意味不明

歌舞伎や海外作品をヒントにした人気小説を映画化
戦前は長谷川一夫が演じ大ヒット
のちに東千代之介や美空ひばりも演じた復讐劇
テレビドラマでは美輪明宏やタッキーが演じた娯楽時代劇

長崎の豪商松浦屋清左衛門は長崎奉行土部三斉によって濡れ衣を着せられ磔の刑で殺される
その妻お菊は夫の処刑を見届け仏壇の前で後追い自殺
残された幼い息子雪太郎は仇を打つと堅く誓う
15年後江戸では米不足で庶民が苦しむなか土部一味の商人たちは米を買い占めなかなか売らない始末
そんななか上方歌舞伎の人気女形中村雪之丞が公演し江戸は大賑わい
何を隠そうその雪之丞こそ成長した雪太郎その人であり娘を側室にするなどして出世した土部を討つために江戸にやってきたのだ
大泥棒闇太郎やスリのお初や土部の娘浪路の助けを借りて雪之丞は敵討ちを果たす

クライマックスは女形から若武者姿に変え華麗なる殺陣
闇太郎の六尺棒による大立ち回りも見どころのひとつ

難点はセリフが所々聞きづらいことだ
昭和30年代の作品なので音声が劣化しているかもしれない
それだけでなく当時は江戸の言葉を忠実に再現しているため教養がないとなかなか理解できないのでないか
字幕がないと厳しい
現状はただその場の雰囲気でなんとなく受け入れるほかない

いくら斬っても血吹雪が出る演出はないのでお子様にも安心して見せることはできそう

一番の問題点は結局雪之丞は土部三斉を斬り殺していないことだ
仇討ちもお上の許しがないと駄目なのだ
だからスカッとしない
残念である
わりと昔の時代劇映画はこういうことがある

仇討ちのために商人の息子が武芸を習うのはわかるが何故歌舞伎役者になったのだろうか
連ドラならその詳細も描かれるだろうが映画の尺で省いたのかもしれない
長谷川版からの『雪之丞変化』ファンなら既に知っていることで必要ないのかもしれない

雪太郎の父である清兵衛を演じた大川橋蔵の歩き方が不自然だが別の撮影で足を捻ったらしい

逆恨みで廣海屋与平の腹部を刺す長崎屋三郎兵衛を演じた吉田義夫の鬼気迫る表情はお見事の一言

ちなみに平成で唯一の『雪之丞変化』タッキー版でお初を演じたのは高岡早紀でこれは適役
その一方で浪路を演じたのは某歯茎女優でこれはミスキャスト

野川新栄