劇場公開日 1996年1月27日

「最後まで観て、あらためてタイトルに感動した。 「Can you d...」Shall We ダンス? 雨丘もびりさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0最後まで観て、あらためてタイトルに感動した。 「Can you d...

2024年1月31日
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最後まで観て、あらためてタイトルに感動した。
「Can you dance with me?」でも「I would like to dance with you」でもない。
ましてや「Let's Dance」でも。

「Shall we ダンス?(私たち、踊りませんか?)」

スッと仕事鞄を預かる青木(竹中直人)に泣ける。
自分が踊ることに悦びを感じていた彼が、無言で他のダンサーに「どうぞ、楽しんで」と思いやりを見せる。いいなあ。

「社交ダンスの何が悪いんだ!一度も踊ったことの無い奴が、失礼なことを言うんじゃない.....ッ」
もし青木が怒鳴っていたら、冷めた。
杉山課長(役所広司)が叱るから、胸が熱くなる。
社交ダンスに並ならぬ情熱をかける人々を目の当たりにした杉山だからこそ、
とても自分は彼らに及ばないと深く失望した杉山だからこそ、
思わず激昂して口走ってしまう言葉。
周防正行監督の品の良さがじゅっと染み出している。味わいよし。

社交ダンスに対する世間の目は変わらない。
みっともなく見えたり、恥ずかしく思われたりするのは否めない。
そんなことはわかってるけど、
それでも、
様々な境遇や、家庭問題や、経験・素養・体型に差がある人たちが、フラットな舞台で手を取り合って、楽しく踊る。
彼らを優しく包むテーマ曲(大貫妙子さんの歌声)も相俟って、とても美しい空間になる。

ひとつ、残念な点がある。
たま子先生(草村礼子)が「お金はいらないから」と杉山に特別レッスンに誘う台詞。
人情味のある、美しい申し出だ。
でも、それはプロなら、ましてや教室雇われのイチ講師なら、言ってはいけない。
言いたい気持ちは痛いほどわかるが、絶対言ってはいけない。
言えないところに悲しみがあるし、それを直視したまま乗り越えたなら、映画のテーマがさらに深い意味を醸し出せたのに。
璧に瑕。あーもう、悔しい。

雨丘もびり